劇場公開日 2025年11月21日

「アクション映画のニュー・ヒロイン、“ドミニク”誕生!」ドミニク 孤高の反逆者 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 アクション映画のニュー・ヒロイン、“ドミニク”誕生!

2025年12月8日
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鑑賞方法:映画館

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【イントロダクション】
南米コロンビアに流れ着いた正体不明のグリンガ(余所者の白人女)が、腐敗した警察と麻薬カルテルに怒りの銃弾を炸裂させるハードコア・ガンアクション。
主演は、180cmの長身でトップモデルとして活躍し、俳優業でも高い評価を受けるウクライナ系アメリカ人のオクサナ・オルラン。
監督・脚本・編集は、『サベージ・キラー』(2013)で世界各国の映画祭で評価されたマイケル・S・オヘダ。

【ストーリー】
南米コロンビアの小さな街で、地元の麻薬カルテル3人組が小型輸送機を撃墜した。輸送機には、鎖が巻かれ固く閉じられた木箱と、パイロットの女性・ドミニク(オクサナ・オルラン)が乗っていた。ドミニクはカルテルのメンバーの内2人を高い戦闘スキルで次々に葬ると、残った1人に彼らが乗ってきたジープに木箱を積ませ、最後の1人を射殺して去って行った。
ドミニクは、給油に立ち寄ったガソリンスタンドで、ジープが地元民から認知されている人物の車だと悟ると、木箱を森の小道に埋め、慣れた手付きで車を燃やした。

その夜、ダイナーで食事をしているドミニクを、グリンガとして怪しむ常連客達の中で、フリオ(セバスティアン・カルヴァハル)という男性が声を掛けてくる。麻薬カルテルが牛耳っている街に女の一人旅は危険だと忠告するフリオをドミニクは気に入り、彼の家で一夜を過ごし、激しく身体を重ねる。

翌朝、仕事着である制服に着替えるフリオの姿を見て、ドミニクは彼が警察官である事を知る。早々にフリオの自宅を去ろうとしたドミニクだったが、母屋で暮らすフリオの未亡人の姉・パウリナ(マリア・デル・ロサリオ)や長女・アブリル(アラナ・デ・ラ・ロサ)、次女・フアナ(ルチアナ・ガルニカ)、長男・ルカス(イアン・パヤリス)、そして車椅子に乗る祖父・ペドロ(グスタヴォ・アンガリタ)らと知り合った事で、去る機会を逃してしまう。しかし、脱水症状で倒れたドミニクを、一家は親しい医師・メディナ(ジョン・アレキサンダー・モラ)を呼んで手厚く介護する。

一方、フリオが勤務する警察署では、小型輸送機の墜落現場で発見された遺体が警察と癒着関係にある地元カルテルのメンバーである事、犠牲者の1人に署長・サンティアゴ(モーリス・コンプト)の義兄弟の契りを交わした人物が関わっていた事から、サンティアゴ達は輸送機のパイロットを血眼で捜索する。無関係の旅行者に非道な拷問と殺人を行う署長達を、フリオは制服に仕込んだ小型カメラで撮影していた。
その晩、フリオは内部調査官の男に腐敗した警察のこれまでの悲惨な現状を訴える。しかし、彼もまた麻薬カルテルの傀儡であり、罠に掛かったフリオは捉えられてしまう。動画データはフリオの自宅のノートパソコンに収められていると睨んだサンティアゴは、部下のナヴァロを向かわせる。

翌朝、ナヴァロは警官隊を率いてフリオの自宅を訪れる。フリオの生首をフェンスに突き刺して見せしめにし、脅迫する。パウリナの悲鳴を聞き付けてやって来たドミニクは、部外者が一家と共に居る事を怪しんだナヴァロに尋ねられる。ナヴァロは部下に命じてドミニクを含むパウリナ一家全員を射殺しようとするが、ドミニクは並外れた体捌きで銃を奪い、正確な射撃テクニックで警官隊6人を殺害し、撤退させる。

ドミニクはサンティアゴ達が自分達を殺害してノートパソコンを回収しに来ると考え、即座に街を出る事を提案する。だが、パウリナが臨月の妊婦である事や、警察が街の至る所を封鎖し、街外れまで行かないとメディナと合流出来ない事から、脱出を夜明けに決め、迫り来る脅威に対抗すべく、フリオの自宅を要塞化して迎え撃つ計画を練る。
一方、サンティアゴは大部隊を集め、夜間を狙って配下であるチャド(ホセ・コネホ・マルティン)に襲撃計画の指揮を執らせる事にする。

【感想】
「せっかくの“映画の日”なのに、何も観に行かないのは勿体ない」と、急遽本作の鑑賞に踏み切ったのだが、いやいやこれは中々の当たりであった。近接アクションこそ、近年のスタイリッシュなアクション設計作と比較すると見劣りする(パンフレットによると、非常に低予算な作品であるらしく、そうした面は仕方ないと言える)が、ドミニクの孤高の反逆者(放題の副題にもある)っぷりが、実に観ていて気持ち良い。

前半は、特にドミニクがパウリナ一家と関わる件が若干退屈にも感じらせたものの、後半でその一家を巻き込んだ籠城アクションに転調する流れが見事であり、成程前半で一家との関わりを描いていたのはこの為かと納得した。何より、籠城アクションとしての見応えが十分にあり、非常に楽しめた。ドミニクはアブリルや彼女のボーイフレンドにブレーカーの上げ下げによって敵の視界を奪いつつ攻める戦法を指示したり、妊婦であるパウリナや幼子であるフアナやルカスを浴室に隠して、彼らがペンキを塗った板で壁を塞いで立て籠もらせる。戦う意志を曲げない祖父のペドロは、亡き息子の亡骸を抱えて銃を携えながら敵を待つ。それぞれの登場人物に、こうした明確な役割があるのが良い。
パウリナが妊婦であるという事も、ドミニクの行動のハンディキャップではなく、「子供を産む」というのは、女性として、母親としての何よりの“戦い”だからだろう。

そして、何よりも本作で評価したいのは、“無慈悲な善人の犠牲”描写に一切の容赦が無い事だ。善人のフリオ、協力者の医者メディナ、そして共に戦ったパウリナ一家に至るまで、とにかく、この手のアクションモノとしては珍しいくらい登場人物達への非情さが際立っている。まさか、共に長い一夜を戦い抜いたパウリナ一家まで全員犠牲になるとは思わなかった。それこそ、産まれたばかりの赤子さえも犠牲になるのである。

しかし、ドミニクがフリオと出会っていなければ、一家はあのまま無惨に殺され、警察の汚職も世間に晒される事なく闇に葬られたであろう。だからこそ、後半の一家の必死の抵抗は、例えそれが最後には水泡に帰すとしても、やるだけの価値は十分にあったはずであり、ドミニクが自らの無力さに打ち震える姿と相まって、強烈に我々の胸を打つのである。
力なき善人は、力(権力)を持つ悪人に捩じ伏せらせる。それは、紛れもない真実である。だからこそ、フィクションの世界だけでも、そんな腐った悪人達に鉄槌を下す存在が居てほしいと願わずにはいられない。

ラスト、激しい怒りを胸に、森に埋めた木箱から大量の武器を取り出して武装したドミニクは、襲撃計画に参加しなかったサンティアゴ署長や、麻薬カルテルのボス・ガブリエラ(マルセラ・メンジュメア)をエンドクレジットに合わせてアッサリと惨殺する。一見、あれだけの巨悪に対する鉄槌としてはあまりにも呆気なくもあるのだが、私はその呆気なさにデンゼル・ワシントン主演、アントワーン・フークア監督の『イコライザー』(2014)が過ぎった。それまでじっくりと悪党との攻防を描きつつ、裏で糸を引く真の巨悪はアッサリと始末されるのだ。これは、「真に唾棄すべき巨悪に、華々しい最期など与えてやらない」という解釈も出来る。悪人には、決してフィクションでも見せ場など与えてやる価値も無いという事だ。

【バイオレンス・アクション映画界のニュー・ヒロイン、ドミニクの魅力が炸裂!】
個性豊かな登場人物達の中でも、やはり何と言ってもドミニクのキャラクター、そして彼女を演じたオクサナ・オルランの熱演が素晴らしい。180cmという長身に加え、「世界一の美女の国」と言われているウクライナの血を引く彼女の顔立ちは、シャーリーズ・セロンを彷彿とさせる凛々しさも感じさせる。

「最近、味がしない」からと、激辛ソースや唐辛子を難なく大量に掛けて食事する姿には、頭部の傷と恋人を失ったショックが原因による軽度の味覚障害も発症している様子。

敵の視界を奪いながらの夜間のガンアクションシーンは、飛び交う弾丸、炸裂する血、ライトに照らされて死体の山の中で佇む姿の勇ましさと絵的なキマリっぷりが気持ちいい。
余談だが、“死体の中に紛れる”という作戦は、『チェンソーマン レぜ編』『KILL 超覚醒』と、今年、しかも下半期だけでも目にするのは3回目となる。好きなシチュエーションなので構わないのだが、それにしても短期間でこれだけ目にする事になるとは。

背中の不死鳥のタトゥーを彫るに至った経緯や、一緒に逃げようとして殺されてしまった恋人との出会い、高い戦闘技術を何処で修得したのか等含め、まだまだ謎の多い彼女の素性に関する興味は尽きない。

【総評】
低予算ながらも、女性版『007』や『ジョン・ウィック』を目指して作られた本作は、主演のオクサナ・オルランの熱演もあって思わぬ傑作となっていた。ドミニクの過去含め、まだまだ描かれていない要素も、さらに発展させられる要素も満載なので、是非とも続編が製作される事を願うばかりだ。

余談だが、本作のパンフレットにて、ドミニクの装備や登場する武器のイラストに生成AIが用いられており、「イラストと本編には細部に差異がございます。予めご了承ください。」という注意書きが小さく記載されているのを見ると、時代を感じさせる。

緋里阿 純