エリザベートと私のレビュー・感想・評価
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二人の女性の救済
この映画を見終わってものすごい空腹感を覚えた。本当にお腹がすいていたからだが、シシィとイルマの食に対する禁欲が自分にも伝染してしまったみたいだった。
スイスに赴く前、イルマはシシィから暇を出されたようだ。イルマが読んだ手紙はそれゆえの母親からの落胆と罵りの内容だった。でも私達はスイスのジュネーヴ滞在を仲良く楽しむ二人を見る。本当は別の人間に向かうはずの刃が、その人間の予定変更と偶然に新聞で知ったシシィ到着記事により、その刃はシシィに向けられる!そんなことはシシィに相応しくない。イルマは許さない、許せない。シシィを心から愛するようになったイルマは、自分を愛してくれるシシィを手にかけるのは自分しかいないと知っている。最後のシーン;紺碧の海を下に断崖の上に立つイルマの笑顔は今まで見た中で最も自由で晴れ晴れとしていた。
娘、妻、母役割に加えてルッキズムを強烈に張り付けられる女性の問題が深く描かれていた。演出と脚本、キャスティング、音楽、衣装、小道具、そしてザンドラ、全てが良かった。
おまけ
この映画は2022年の映画「エリザベート 1878」(原題:Corsage)の続きだなとも思った。"Corsage"のシシィは40才設定で元気一杯、人をくってる振る舞いが本当に自由で笑ってしまう。見た当時は知らなかったがシシィ演じたヴィッキー・クリープスはPTA監督の「ファントム・スレッド」(2017)でアルマを演じている。「エリザベート 1878」も「エリザベートと私」 (2023)も女性監督による作品。一方でロミー・シュナイダーがエリザベートを演じた「シシィ三部作」(1955,1956,1957)はエルンスト・マリンシュカというオーストリアの男性監督によるもので、若くて美しい時代のシシィだけに焦点をあてた映画だ。商業的に大成功し10代だったロミーを「誰からも愛される」アイドルにしたシシィ映画はロミー・シュナイダーをずっと苦しめた、シシィ当人でないにも関わらず。
やっぱりザンドラ・フュラーのうまさに魅せられる
私好みの傑作!撮影はスタイリッシュ、衣装や美術、挿入歌がおしゃれ。謎めいた導入部(ギリシャの館へ赴任シーン)、そしてなんといってもシスターフッドの高揚感!(嫉妬はするけど、恋愛とはちょっと違う)
自由奔放な皇后シシィにイルマが感化されていく過程にわくわく。バスタブ、馬上、ダイブ、草etc
母親に抑圧されていたイルマが解放される一方で、皇室や老化への抵抗の同志を得て生き生きするシシィ。
史実と創作を上手く組み合わせている。フランツ・ヨーゼフ一世やヴィクトル大公などキャラの強い実在人物をうまく配して盛り上げる。方やシシィの死については謎めいた解釈になっている。
旅行のシーンもとても楽しい。ギリシャ、アフリカ、イギリス、スイス 二人と共に各地の旅情を堪能できる。あと、シシィの実家の設定出てくるピンクのお城。デュッセルドルフにあるベンラート城が使われていると思われるが、めちゃくちゃかわいくて行ってみたい。
ザンドラ・ヒュラーはやはり圧倒的にうまい!イルマの人間的成長と心象変化を見事に表現している。本作は特集上映だけでなく、是非拡大公開してほしい。
また今回来日が中止になったのは残念。引き続きザンドラを追いかけます。
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