「こういうのが良いんです!」ナイトコール かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
こういうのが良いんです!
24時間営業の、バン一台でひとり商売の鍵屋、ママセレクションの昔のCDを聴きながら良い感じで仕事をこなし、結構繁盛しているみたい。
クレールと名乗る超急ぎの若い女性客は現金先払いは無理、身分証も部屋の中、どう考えても危ない客なんだから断ればいいのに、警戒しつつも受けてしまう人の好い黒人青年マディ、言わんこっちゃない(脳内でです)、マフィアの大金盗難の犯人に仕立て上げられ、あれよあれよという間に超やばいことになっている、典型的巻き込まれ型クライムサスペンス。
ブラック・ライフ・マターのデモで盛り上がる夜のブリュッセルを駆け巡る、追いつ追われつの逃走劇がすごい。
夜中から朝までのたった一夜の話の中に、エンタメがぎゅっと詰め込まれている。
バイクあり車あり、走る飛ぶ落ちる、次々繰り出されるアクションがテンポよく、ドラマパートとのメリハリも効いていて、まったくダレない。
縦横斜め縦横無尽の撮影が効果的で、マディがバイクで地下鉄に侵入、ホームまで駆け降りるところはおそらくドローン撮影だろうが、見たこともない臨場感で自分も一緒に駆け降りたよう。思わず椅子から腰を浮かせてしまった。
金を取り戻したところでマフィアが解放してくれるわけないと思っていたら、ヤニックが意外と甘い。マディが思いの外頭が良く、その上お人好しで人を信じやすいから今後も便利に利用できると思ったにしても。でも、助かってよかった。
一旦無事に解放されたのに、とんでもな状況に陥れた張本人のクレールに同情して、わざと車で暴走、追ってきた警官隊をぞろぞろ引き連れてわが身を顧みず助けに行くって、人が良すぎてちょっと歯がゆいです。
ラストは不条理な悲劇かと思ったらそう来るか。
マディ、「警官が怖くて逃げまどっただけの丸腰の黒人青年」、とか言われてヒーローになっちゃうかも。
夜通し繰り広げられていたBLMデモが、ここで効いてくるとは。
マフィアの〇し方に戦慄。どこも汚れないし武器もいらない合理性が非情で怖すぎ。
悪人とはいえ残虐に命とられるテオが気の毒で、一度踏み込んだら抜け出せない世界なのがよく分かった。
都合よすぎなところがいくつもあるが、シンプルな逃走劇に軽めのサスペンスを絡めてアクションてんこ盛り、最初から最後まで一気に見せ切りながら余韻を残す、そして90分で締めるところが素晴らしい。
エンディングのペトゥラ・クラーク(「チップス先生さようなら!」)の曲の歌詞がマディの心中まんまでとてもよかった。
さすがベルギーのアカデミー賞といわれるマグリット賞で最優秀作品賞を含む10部門に輝いたというだけある。
こういう映画にたくさん賞を取らせるマグリット賞って素敵と思いました。

