劇場公開日 2025年10月24日

「前作よりパワーアップしたアクションと、半減したストーリー性」Mr.ノーバディ2 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 前作よりパワーアップしたアクションと、半減したストーリー性

2025年10月28日
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鑑賞方法:映画館

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【イントロダクション】
ボブ・オデンカーク主演の“冴えないオヤジが実は最強の殺人マシーンでした”シリーズ第2弾。本作では一家団欒を求めて行った家族旅行先で、思わぬ裏社会の内情に巻き込まれてしまう。更に、敵のボス役にベテラン女優のシャロン・ストーンが参戦。
監督は、前作のイルヤ・ナイシュラーからティモ・ジャヤントにバトンタッチ。脚本には、前作に引き続き『ジョン・ウィック』(2015)のデレック・コルスタッドが参加。その他脚本に、アーロン・ラビン。

【ストーリー】
“Mr.nobody(何者でもない男)”ことハッチ・マンセル(ボブ・オデンカーク)は、前作で自身が焼却したロシアンマフィアの基金3,000万ドルを肩代わりした組織への借金返済の為、裏家業の戦いを重ねる日々を送っていた。妻のベッカ(コニー・ニールセン)には毎晩帰宅を待たせ続ける日々で、家族とロクに顔を合わせる時間もない。

ある日、ハッチは組織に休暇を取って息抜きをしたいと申し出る。組織のボスは了承するが、「お前の行く先々に問題はつきまとう」と助言する。ハッチは幼少期に一度だけ父デイヴィッド(クリストファー・ロイド)に異母兄弟のハリー(RZA)と共に連れて行かれた思い出の地「プラマービル」への家族旅行を計画する。

施設で暮らすデイヴィッドも連れ、“全米最古のウォーターパーク”が売り文句のテーマパーク「ワイルド・ビルのウォーターパーク」を訪れたハッチ一家。しかし、ゲームセンターでのトラブルからパークの経営者ワイアット(ジョン・オーティス)の反感を買い、彼と癒着関係にある保安官エイブル(コリン・ハンクス)らからパークを退去するよう執拗に狙われる事になる。
実は、パークの裏では違法薬物や兵器の取引が行われており、かつてデイヴィッドが自分達を連れてここを訪れたのも仕事としてだったのだ。

意図せずしてパークの裏事情に首を突っ込む形になってしまったハッチは、襲い掛かる刺客を退け、拉致されそうになっていたワイアットの息子を助け出す。
しかし、パークの裏には更なる大物である“容赦はしない女”レンディーナ(シャロン・ストーン)が控えており、ハッチはレンディーナ率いる組織との全面戦争に巻き込まれていく。

【感想】
『ジョン・ウィック』の製作チームから複数の人材が参加しスマッシュヒットを飛ばした前作に引き続き、本作でも前作以上にパワーアップしたアクションが展開される。
ガンアクションメインのあちらと比較して、本作の主人公ハッチは泥臭い格闘戦を繰り広げており、違った魅力がある。更に、本作では妻のベッカや息子のブレイディ(ゲイジ・マンロー)もアクションに参加しており、続編らしさを感じさせる。

反面、キャラクター描写やストーリー性の魅力、ボリュームは半減したように思われ、特に前作の前半部分で重要となっていた“月曜のジョギング、火曜のゴミ出し…”といった、変わり映えのしない生活を送る「一見冴えないオヤジ」という要素は、本作では初期設定を踏まえた申し訳程度のものとなってしまっている。来る日も来る日も裏家業というのは、それはそれで変わり映えのしない日常とも言えるが、裏家業メインのアクション展開は前作より単調になってしまったように思う。

それに対して、パンフレットの内容は非常に充実しており、デザインは勿論、キャストインタビューやコラム、場面写真の充実、前作の復習も載っているのでオススメ。

クライマックスでのウォーターパークでの全面戦争はそこそこ盛り上がるのだが、森のロッジでのハリーによる日本刀アクションの方が印象的になってしまっており、少々勿体なく感じた。
テーマパークでのアクションは仕掛けも展開も「何処かで見た」感じとなってしまっており、というのも、評判こそ悪いがエディ・マーフィ主演の『ビバリーヒルズ・コップ3』(1994)ではよりテーマパークでのアクションを全面に押し出した内容が打ち出されており、「題材を活かす」という意味ではあちらの二番煎じになってしまっているように感じられたからだ。

また、演じたシャロン・ストーンの年齢を考えると仕方ないのだろうが、ラスボスであるレンディーナの見せ場がイマイチ盛り上がらず、直前の伏線からベッカに倒される事も容易に想像出来てしまうので残念だった。ベテラン女優を起用出来るのは、前作の成功あってこそだと思うので、もっと動けるタイプの俳優にオファーしても良かったのではないかと思われる。
何せ、本作の魅力は「ハッチが手傷を負いつつも敵を撃破していく」という、オヤジの頑張りにあると思うので、ラスボスとの対決の大部分が側近の女性達というのは味気ない。

前作の完成度の高さから、色々と物足りなく感じてしまう部分も多々あるが、前述した通りアクションシーンは前作以上にパワーアップしており、ボリュームも増している。ゲームセンターや水上バスでのアクションは爽快感もあり見ていて楽しかった。

【総評】
前作以上にスケールアップしたストーリーとパワーアップしたアクションは、娯楽アクションとして楽しめる。反面、前作で丁寧に描かれていたキャラクター描写と比較すると、既にキャラクター設定が明かされた本作は、そこに物足りなさも感じた。

非常にシンプルなストーリーなので、今後更なる続編の可能性もあるかもしれないが、製作費2,500万ドルに対して、世界興収が損益分岐点を超えていないのが気掛かりである。

緋里阿 純
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