「子供達の失踪事件を追った先にある、意外な景色」WEAPONS ウェポンズ 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
子供達の失踪事件を追った先にある、意外な景色
【イントロダクション】
ニュー・ライン・シネマ製作、ワーナー・ブラザース配給によるホラー作品。とある小学校の1クラス、17名が謎の失踪を遂げた事件を巡って、登場人物達それぞれの視点から真相に迫っていく。
出演には『ファンタスティック4/ファースト・ステップ』(2025)のジュリア・ガーナー、『アベンジャーズ』シリーズのサノス、『DUNE/デューン 砂の惑星』シリーズ(21、24)のジョシュ・ブローリン。ブローリンは製作総指揮にも参加。
監督・脚本・製作は、『バーバリアン』(2022)で高い評価を受け、リブート版『バイオハザード』(2026年公開予定)の監督にも抜擢された鬼才・ザック・クレッガー。
【ストーリー】
アメリカ、ペンシルベニア州の小さな街で、小学校1クラスほぼ全員である17名の少年・少女が、真夜中の2時17分に突如家を飛び出して行方不明となる謎の失踪事件が発生した。唯一、アレックス・リリー(キャリー・クリストファー)という男子生徒だけは行方不明にならなかったが、担任の女性教員ジャスティン・ギャンディ(ジュリア・ガーナー)は彼と共に警察から事情聴取を受ける。
「ジャスティン」
前代未聞の事件に、学校は1ヶ月間もの間休校となったが、他の生徒を休ませておくわけにもいかず、校長のマーカス(ベネディクト・ウォン)は保護者説明会を開催して学校を再開した。保護者説明会では、失踪した子供達の保護者がジャスティンを激しく糾弾し、マーカスはこれまでのジャスティンの教師と生徒の関係性を超えたハグや送迎といった現代的な教育規範から逸脱した指導も問題視しつつ、彼女にしばらく休職するよう言い渡す。
ジャスティンはストレスから逃れるかの如く深酒をし、不倫関係にある警官のポール(オールデン・エアエンライク)を呼び出し、彼と一夜を過ごす。
後日、アレックスの身を案じるジャスティンは、彼の自宅をこっそり訪ね、中を覗けないよう大量の新聞紙が貼られてた窓の僅かな隙間から、暗い室内にアレックスの両親らしき人物が座っているのを目撃する。家を見張る為、彼の家の近くに停めた車の車中で過ごすジャスティンだが、夜中にアレックスの母が車中に侵入し、酒に酔って眠ってしまったジャスティンの髪の毛を一房ハサミで切って持ち去った。
「アーチャー」
行方不明となった男子生徒マシューの父、アーチャー・グラフ(ジョシュ・ブローリン)は、事件の真犯人をアルコール依存症や以前勤めていた学校で教員と不適切な関係を持って解雇されていたジャスティンだと睨み、保護者説明会で彼女を糾弾し、警察に彼女の調査を依頼する。しかし、警察も事件の捜査に手こずっており、相手にされない。
息子の戻らない悲しみから、息子の部屋のベッドで眠る日々を送るアーチャーは、ある夜、夢で失踪したマシューの姿と、謎の老婆の姿を目撃する。建設業を営むアーチャーは、夢で見たマシューの行き先と自宅の防犯カメラに残された映像から、息子の辿った経路を地図上から割り出し、同級生ベイリーの父からも防犯カメラの映像を見せてもらう。次第に子供達の辿ったルートが明らかになっていく中、アーチャーはガソリンスタンドで給油中のジャスティンに声を掛けるが、彼らは突如やってきたマーカス校長の襲撃を受ける。
「ポール」
警察官であるポールは、アルコール依存症の治療と執拗に子供を欲しがる妻ドナとの冷め切った夫婦生活にうんざりしており、不倫相手のジャスティンの誘いに乗って彼女と一夜を共にしてしまう。それを知ったドナの叱責を受けつつ仕事に向かった彼は、麻薬中毒者の青年ジェームズ(オースティン・エイブラムス)が窃盗の不法侵入をしようとしている現場を目撃し、彼を捕らえて暴行を加える。しかし、パトカーに設置されていたドライブレコーダーにはその光景が記録されてしまっていた。記録映像が上書きされるまでの1ヶ月間、ポールはジェームズが自分を訴えないように、彼に「2度と自分の前に現れるな」と促して解放する。
「ジェームズ」
麻薬中毒者で森の中でテント生活を営むジェームズは、ドラッグを買う金を求めて窃盗を繰り返し、盗んだ品を質屋で売り捌こうとしていた。しかし、中々金目の物が手に入らない彼は、アレックスの自宅に侵入する。すると、そこにはソファーに座って微動だにせずにいる彼の両親がおり、地下室には子供達が同じく微動だにせずに直立している異様な光景を目の当たりにする。ジェームズは混乱しつつ、銀食器類を盗んで逃亡する。質屋で換金中のジェームズは、壁に貼られた行方不明の生徒達の写真に気付き、1人5万ドルという破格の賞金欲しさに、警察に情報提供しようとするが、先日の一件からポールに見つかり追いかけられ逮捕されてしまう。目撃情報を提供し、彼と共にアレックスの自宅前に訪れたジェームズだったが、ポールはジェームズを置いてアレックスの自宅に入っていき、一晩経っても戻って来なかった。
「マーカス」
校長のマーカスは、アレックスの叔母だと名乗る老婆・グラディス(エイミー・マディガン)の訪問を受ける。彼女曰く、アレックスの両親は病気で療養中であり、彼の家で世話をしているという。
休日、マーカスは自宅にて同性婚の男性テリーと共に自宅で過ごしていると、グラディスが押し掛けてくる。テリーに招かれてキッチンに案内されたグラディスは、鞄から謎の木の棒やベルを取り出し、ベルを鳴らしてマーカスの動きを封じた。鋭利な枝の先端で自らの手を切って血を塗りたくり、ハサミで切り取ったテリーの髪の毛を巻き付けてへし折る。すると、突如マーカスはテリーを襲い始めて殺害する。立て続けにグラディスはアレックスの母が切り取ったジャスティンの髪の毛を巻き付け、同じ要領でまじないを掛ける。マーカスは一目散にジャスティンの元へと走り、彼女を襲い始めた。
やがて、物語は「アレックス」の視点に移り、全ての真相が明かされていく。
【感想】
アメリカ、ならびに世界各国でのスマッシュヒットから、急遽日本公開の決まった本作。
日本公開前に海外で視聴済みの観客から「考察系ホラー」と称されていたので、作中のあらゆる事象や台詞に、何かしらの伏線や意味が込められているのだと思い、鑑賞出来るのを楽しみにしていた。「ネタバレ厳禁」と公式がアナウンスしている事もあって、予告編やフライヤー以外の情報をなるべくシャットアウトして鑑賞に臨んだ。
事前の期待値の高さが裏目に出たか、個人的には本作、少々肩透かしを食らいもした。楽しめる部分は存分に楽しめたのだが、肝心の事件の真相や、各登場人物の視点を章立てて展開し、真相を明かしていくという脚本の構成については、割とよくある話、よくある手法だからである。個人的な評価としては、“中の上”程度だろうか。
調べると、そもそも本国では「ブレットクラム方式」という、事前に作品の情報を明かさず、“謎”を撒き餌(breadcrumbs)に集客を狙うスタイルだった様子で、なるほど「一体どんな作品なのだろう?」と何気なく劇場に足を運べば、思わぬ拾い物感覚で満足度は高いだろうと思えた。
私はそもそもとして、「ヒットした作品だから期待出来るぞ!」「考察するぞ!」と意気込んでしまっていたので、本作に臨むべき鑑賞姿勢から逸脱してしまっていたのだろう。
事前に仕入れていた情報の少なさから、キャスト陣の意外なまでの豪華さに驚くことが出来た。また、『ファンタスティック4』でシルバーサーファーを演じていたジュリア・ガーナー、『アベンジャーズ』シリーズのラスボス・サノス役のジョシュ・ブローリン、『ドクター・ストレンジ』シリーズ(16、22)でウォンを演じているベネディクト・ウォンと、まさかのマーベル作品キャストが意外な共演である。
【グラディスに見る社会構造の悪】
本作の事件の真相は、大雑把に言ってしまえば「黒魔術による洗脳」という、一個人の“悪意”による割と小規模な範囲のものだ。マーカスが自宅で観ていたドキュメンタリーにある、“蟻に寄生する菌類”が示すように、グラディスは黒魔術で支配下に置いた人々から何かしらのエネルギー=生気を吸い取って延命している魔女(WITCH)だったのだろう。ジャスティスに対して、アーチャーが車にペンキで書いた“WITCH”という文字が、そのままグラディスの正体の暗示に繋がっていくのは見事。
元々、監督のザック・クレッガーは、本作とは別に構想していた「突如少年の家にやって来た老婆が、怪しいまじないで人々を支配する」というアイデアを温めており、本作の脚本執筆段階でそのアイデアを合わせる事を思い付いたのだそう。
個人的には、このオチは期待していたオチとは違い、少々肩透かしを食らった。その背景にある「人間性の剥奪」「権力者による支配・搾取」という構造を“人間を武器化する”事で例える恐ろしさはあれど、もっと、先住民を支配して成り立ったアメリカという国そのものの抱える歴史の闇が関わるのかと思っていたからだ。言ってしまえば、思ったよりも「しょうもない」オチだったと思った。
ジャスティンとアーチャーが見た夢に出て来たピエロを彷彿とさせるグラディスの姿は、子供達は勿論、その教師や親である彼らにまで支配の魔の手を伸ばそうという、彼女の邪悪な“侵入”の意思を意味していたのだろうと考えれば、単なるジャンプスケア演出以上の説明もつく。
アーチャーが自宅の真上の夜空に見たマシンガンの幻影は恐らく、銃社会であるアメリカにおいて、グラディスが子供達をそのように武器化している事の暗示なのだろう。それこそ、襲い掛かってきたマーカスを追尾式ミサイルに例えたように。
ところで、最も重要なキーワードになるだろうと期待していた、“深夜2時17分”に子供達が一斉に失踪したという「時間」にも、何か重要な意味があるのかと勘繰っていたが、単に呪術を発動させたのがその時間だったというだけであり、それ以上の意味は無さそう。そもそも、この失踪時刻を意味ありげに宣伝しているのは日本版ポスターのみである。
【“恐怖”を“笑い”に。意外なクライマックス】
クライマックスで、グラディスが自らが武器化した子供達に襲われるという恐怖の“鬼ごっこ”シーンでは、場内の至る所で笑いが起こっていたし、私も思わず笑ってしまった。表向きには「元気がない」と語っており、実際に誘拐した人々から生気を吸い取って延命していたであろうグラディスが、中々の全力疾走ぶりと長距離走ぶりを発揮していたのだから(笑)
また、アラレちゃん走りのような姿勢のはずの子供達も、そんな設定何処へやらで、窓ガラスを勢いよくブチ破りながらの全力疾走ぶりである。
そして、四肢をもぎ取られ、目を潰され、仕舞いには上顎から上を引き千切られての絶命とは、中々の天晴れな虐殺ぶりである。悪役の散り様としても素晴らしいが、返り血を浴びても無邪気に遺体を損壊させ続ける子供達の無邪気な笑顔が恐怖である。
笑いと恐怖は紙一重だと言うが、まさに本作のクライマックスは、それまで積み上げられてきた“恐怖”が“笑い”に転化された瞬間であり、それはまさしく、人間性を排除して、人間を武器に転化させた彼女の行いと通じる。
それにしても、武器化した人間達の世話係が必要だったとはいえ、魔術のキーアイテムを部屋に置いたまま、アレックスに自由に身動き出来る状況を与えて地下室に居る(脚本的なジャンプスケア以外の理由では、何であんな所に居たのか謎である。エネルギーの補給でもしていたのであろうか?)というのは、あれほどの事態を引き起こした黒幕の行動にしては、余りにも迂闊である。
【総評】
全米をはじめ、世界各国でスマッシュヒットを記録した本作は、軽い気持ちで「謎」を追う事で、思わぬ景色を見せてくれる、ホラー映画の新たなマスターピースと言えるだろう。
個人的には、期待値を上げ過ぎてやや肩透かしを食らいもしたが、それでもクライマックスの盛り上がりは、ザック・クレッガー監督の意図したように劇場で大勢の観客と最高の「映画体験」を共有する事が出来た。
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