「丑三つ時のナルト走りで鮮烈なスタートダッシュから、爆笑のラストへ」WEAPONS ウェポンズ いたりきたりさんの映画レビュー(感想・評価)
丑三つ時のナルト走りで鮮烈なスタートダッシュから、爆笑のラストへ
ワーナー ブラザース ジャパン最後の洋画配給作品と銘打たれた作品。しかし出来としては「まあまあ」の本作が掉尾を飾るというのは、いささか寂しい気がしないでもない。一足先に劇場公開された『ファイナル・デッドブラッド』の方が、ホラーという内容はさておき、同社の人気シリーズだったという点でその任にふさわしかったようにも思える。いや、いっそのこと、昨年配信スルーされたイーストウッド監督の『陪審員2番』こそ、限定公開でいいからマトモな劇場スクリーンで観せてほしかった。今さら罪滅ぼしみたいに都内/都下の地域おこしイベントなんかでひっそり上映してないで…。
そんなイチ映画ファンの戯言はさておき、本作は冒頭からいきなり、丑三つ時の「ナルト走り」で鮮烈なスタートダッシュを切る。で、そのあとは『パルプ・フィクション』のような非線形構造の章立てをとって観客の興味を引っ張る。登場人物や時制など複数の切り口によって謎のヴェールが一枚一枚剥がされ、やがて全編を貫く一つの真相が見えてくる、といった趣向だ。今年の劇場公開作でいうと、『ストレンジ・ダーリン』なんかがテイスト的にやや近いだろうか。
そういえば、本作でエイミー・マディガン(撮影当時73歳)がグラディス叔母さんの役を演じていることも、『ストレンジ・ダーリン』にキャスティングされていたバーバラ・ハーシー(撮影当時74歳)を思い出させる。やはり両作品には相通ずるものがありそうだ。
そのエイミー・マディガンだが、本作では時折『IT/イット』のペニーワイズみたいな表情ものぞかせたりして、なかなかの怪演である。といっても、彼女の実生活での夫であり、『愛はステロイド』ではカブトムシを生きたまま食べていたエド・ハリスに比べたら、まだまだ控えめで大人しいが(笑)。
そのほか出演者関連で気になったエピソードは、ジュリア・ガーナーとジョシュ・ブローリンがそれぞれ見る悪夢。あれは一体何なのか。いずれも「ココから夢ですよ」と分かるように描かれるから、ジャンプスケアのオチにも驚きがない。ことにジュリア・ガーナーのそれは「何を今さら」といった感じだ。『ボーはおそれている』での浴室の天井貼り付きオジサンを見ていれば、もはやアレを超える衝撃(というか笑撃?)などないだろうに。
そのかたわら、彼女は本作でピーラーの「新しい使い方」も披露してくれるが、しかしそんなチマチマした反撃では埒が明かないだろ、と突っ込みたくもなる。
かたやジョシュ・ブローリンは、さすがサノスだけに易々と人を投げ飛ばして頼もしさをアピールするが、その彼がマッチ棒みたいなガーナー嬢をポキリとへし折れないのはなぜだ。また、彼がやおら地図に書き込む赤線の理屈もよく理解できない。でも最後までジュリア・ガーナーや他人の子どもたちの安否など微塵も顧みず、我が子の無事だけを乞い願うあたりはなかなかよい。
そんなこんなの本作ではあるが、人間がもつ善悪どっちつかずの曖昧さや日常生活に潜む匿名的な悪意を描いた前半は、どこか黒沢清監督のJホラーに似てなくもない。ただし同監督の『Cloud クラウド』ほどの凄味はなく、冗長に感じられるシーンも多い。また、怪奇現象の種明かしをしてみせる後半も、ジョーダン・ピール作品のような予想の斜め上をいく展開や深い社会性が用意されているわけではない。「なぁんだ」といった類いのオチが明かされるだけだ。
それでも、ジュリア・ガーナーが自家用車で逃走すると、それを追って人が「ナルト走り」で車道を爆走するあたりから、恐怖より可笑しみの方がじりじりせり上がってくる。監督の意図したところかどうかは定かでないが。しかしこうなると、キャンベルスープ缶で「生育」しているシーンまでいちいち可笑しい。
そしてクライマックス。住宅の窓ガラスやドア、垣根などを豪快に突き破ってみせるデッドヒートは、半ばキートンのサイレント・コメディと化す。自宅の芝刈りをしていた住人が怒涛のチェイスを茫然と見送るシーンなど、『デス・プルーフ in グラインドハウス』の一場面——画面奥で展開されるカーチェイスを差し置いて、画面手前では牛がのどかに草をはんでいるショット——を彷彿とさせる。これはもう笑うしかない。突き破ったドアのすき間から覗く母親の形相も『シャイニング』を通り越してジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』になっちゃってるし。
ただ惜しむらくは、本作の象徴的な「ナルト走り」をラストまで貫き通さなかったこと。なにか事情があったのだろうとは察するが、それでも詰めの甘さは拭い切れない。ここが「出来としてまあまあ」の印象につながったイチバンの理由だ。
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