劇場公開日 2021年12月10日

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「題名の意味と本当のテーマとは」ダンサー・イン・ザ・ダーク あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0題名の意味と本当のテーマとは

2022年8月20日
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鑑賞方法:DVD/BD

鬱映画の名にし負う作品
世界的映画賞に輝く永遠の名作
そして主演のビョークを一躍世界的に有名した作品です

そのビョークが2023年3月に来日するというニュースを先日見ました
東京と神戸の2公演のみですし、チケットもかなりの高額なのでどうしようかと考えています
しかし、それでも行ってみたいと思ってしまう力が彼女にはあるのです

時代は1960年代後半
劇中、ミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」の「私のお気に入り」を練習するシーンが有りますからそれが公開された1965年以降のはずです
プラハの春というウクライナ侵攻のようなことが1968年8月にありましたから、その直後にセルマが息子ジーンを連れてチェコから逃げて来たのかも知れません
しかし本作は政治には全く関係ありません

舞台はアメリカのどこかの田舎町
主人公はチェコ移民のシングルマザー
何故夫がいないのかは語られません
子供は10歳ぐらいの男の子
母子ともに眼鏡をしています
警官の家の敷地内のトレーラーハウスに住んでいます
町の金物工場でプレス工として働いています
慎ましい生活
というより今でいうワーキングプアです
それでも週に一回町営の小劇場みたいなところでミュージカルの練習にいくただ一つの生きる楽しみがあります
しかし彼女と息子には実はタイムリミットがあったのです

本作はミュージカルです
そのように映画の説明にありますし、観れば確かにそうです
でも普通のミュージカルとは全く異なります
歌と踊りのシーンの分量が、普通のミュージカル映画と比較して圧倒的に少ないのです

ひょっとしてミュージカルというのは間違いかな?と思いかけた頃に最初のミュージカルシーンがあり、またしばらくないという具合です

カメラはドキュメンタリータッチです
手持ちカメラの望遠レンズで被写体を捉え、手ブレして揺れる画面です

写されるものは、美しいパリの街並みでも、雄大なアルプスの自然でもなく、美しいヒロイン、甘いマスクの男前でもありません
優美なドレス、豪華なセット
そんなものはどこにもありません
それは彼女の記憶の中だけにあるのです

それは昔チェコで観た古いアメリカのミュージカル映画の記憶です

ウェディングケーキのような回る螺旋をダンサーが歌い踊る
そして真上から見下ろす視点になる
そのような記憶を彼女が劇中語ります

1936年のMGM の名作中の名作ミュージカル映画「巨星ジーグフェルド」のクライマックスシーンの事だと思います
正に王道のミュージカルです
巨大なウェディングケーキの回転セット、終盤の真上から万華鏡のように撮るバークレーショットで特に有名です
歌と踊り、豪華なセットと衣装
豊かな憧れのアメリカの生活そのものです

田舎町のしょぼい映画館で映写される白黒映像で一瞬写り込むのはおそらく同様のミュージカル「四十二番街」だと思います

でも、それに憧れてアメリカに移民してきた自分の今の生活との違いの落差はまるでナイヤガラのように大きいものがあるのです

進行する目の病気に怯え、貧しい生活をさらに切り詰めて日々働きずくめの毎日なのです

ミュージカルの歌と踊りは、登場人物のあふれる感情をそれで拡張して表現するものです
本作も同じですが、喜びや、ときめきや、恋愛の悩みではないところが大きな違いなのです

苦しい仕事の中、つい空想に耽ってしまう
そんなこと誰だってあることです
現実からの逃避です

きらびやかなミュージカルだって現実逃避なのは同じではありませんか

主人公のセルマは苦しい生活の中で精神を保つ為に頭の中のミュージカルに逃避しているのです

彼女が軽度の知的障害であるなんてわけありません
働きずくめ、疲れがたまってクタクタ、寝不足
どんどん頭の回転は鈍くなり、正しい判断も出来なくなっていくのです
ふと気がつけば馬鹿げたことを考えていたり、フラフラとやりそうになっていたこと、いやしてしまっていたり・・・

あなたにはそんな経験はありませんか?

もしないのなら、あなたは幸せな人生を送って来た人なのでしょう
あるいはこれから経験するかです

本作は、共産主義がどうとか、司法制度がどうとか、死刑がどうとか、そんなことは全くどうでもよいことです
テーマではありません

精神が追い詰められて、正常な思考が失われていく中で、人はその人物の本性がむき出しになっていきます

イライラと他の人間にあたり攻撃的になる人
ビルのように悪事を働き、嘘をつき友人に罪をなすりつける人
セルマのように、ぼんやりと空想の中に逃避して穏やかではあるけれど何かがおかしくなる人
様々です

本作の題名「ダンサー・イン・ザ・ダーク」とは、このような精神が追い詰められたなかで人がどう生きていくかを表現しているのだと思います

観客の私達は、彼女の強烈な運命をつぶさに観ることで、少なくともこの映画の間は精神が追い詰められていきます

本作のテーマはそれです
ダンサー・イン・ザ・ダーク
暗闇の中で踊りつづける人生とはどういうものか
その中であなたはどんな本性を現すのかを考えてみること
それを体験することなのです

蛇足
オルドリッチ・ノヴィは架空の人物です
おそらくミュージカルダンスの名人フレッド・アステアをイメージしている人物だと思います
それをむりくり同郷のチェコ人だとしているのだと思います

最後に友人キャシー役のカトリーヌ・ドヌーヴが素晴らしい
彼女が配役されていなければ本作は破綻していたと思います

あき240
はなもさんのコメント
2022年9月1日

こんにちは。
 大昔にこの映画を見て衝撃を受けた事を思い出しました。ビョークって知らなかったけど、その稀有な存在感と映画に本当にたまげました。そのビョークが来日⁉️へー、またまたビックリです。

はなも
NOBUさんのコメント
2022年8月31日

今晩は
 ビョークが2023年3月に来日するんですか!
 私がビョークを知ったのは、彼女がソロになる前に”シュガー・キューブス”と言うバンドのボーカルを担当していた時でした。
 ロッキングオンを読んで、少ない小遣いでCDを買い、ぶっ飛びました。ビヨークの声に。”何だ、これは!”と言う位のインパクトでしたね。
 北欧のバンドでは、その後”シガー・ロス”が出て来て、又ノックアウトされましたが、北欧はヘビメタだけじゃないぞ!という認識を持ったロック・オルタナティブヴォーカルですね。では。

NOBU