「音楽やミュージカルが現実逃避になって生き続けられている人間はこの世に自分を含めてたくさんいる。それをわかっていながら、こんな残酷な映画を作る監督が私は大キライだ」ダンサー・イン・ザ・ダーク カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)
音楽やミュージカルが現実逃避になって生き続けられている人間はこの世に自分を含めてたくさんいる。それをわかっていながら、こんな残酷な映画を作る監督が私は大キライだ
1960年代のアメリカの田舎町が舞台のデンマーク映画。
2056ドルは1960年代だと、まだ1ドル360円として、72万円ぐらい。当時の消費者物価指数を勘案すると、4倍として、現在の価値は300万円近く。医療費は全額自己負担のアメリカ。日本みたいに特定難病指定疾患で行政が全額負担してくれるわけでもない。難しい眼の手術費としてはまずまず妥当な額なのかなと。弁護士費用はよくわからないけどやはり妥当な気がする。
大家で警察官のビルは嫁さんの浪費癖が原因で家を担保に銀行から借金している設定。セルマにそれをこぼすシーンがあったけど、ジーンの眼の手術費用のために節約して、低下した視力で危険な工場で働いていることに比べると【秘密の重さ】が全然釣り合わない。そんな約束をしてしまい、裏切られても、頑なに秘密にする約束を守ろうとするセルマの人に言われたことをそのまま受け取ってしまう馬鹿正直さはある種の発達障害があるように思える。それにつけこむ輩も彼女の半生のなかでたくさんいたに違いない。セルマの人生は苦行の連続。だから、セルマは妄想の世界で明るい夢を見る。音楽とタップダンスが唯一の拠り所。
警官のくせにセルマの大事なお金を奪っておいて、セルマから関係を迫られたとか、セルマがお金を盗ったとか、行き当たりばったりに嘘をつき、セルマをおとしいれ、挙げ句の果ては死にたいから拳銃でオレを撃ってくれといいながらも、お金はしっかり抱いて離さない。目が見えないセルマが発砲しても当たらないと思って、甘くみたんだろう。猿芝居。あまりにもメンへラ。
幼稚園かお前は❗
だから、必死なセルマに貸金庫の重たい鉄製のケースで顔をぐしゃぐしゃにされるんだよ。
貸金庫のケースは普通は家に持って帰らないものだけど。
ビルは警官でパトカーを公私混同して使う奴で、いけすかなかった。嫌な予感がもろに的中。
しかし一番腹が立つのは、こんなアラの目立つシーンを作る一方で、絞首刑の場面は実に細かい、いい仕事をしてくる監督。
怖ぇーよ。お前が一番ダークなんたよ。ふざけんな❗と腹が立つのだ。
牛乳瓶の底のようなメガネをかけたセルマはイノセントそのもの。
ほかの共演者(子供を除く)と比べて、ビヨークは東洋人のようで、低身長で、幼児体型で、童顔。小学生の息子の母親役だが、周りの大人からは子供扱いされているような感じをどうしても受けてしまう。セルマは当て書か。ずるいよなぁ。チェコからの移民の設定。チェコでは息子の眼の手術ができないという理由で、アメリカにきた。彼女のチェコでの過去は推察するしかない。
なぜ、尊敬するチェコのタップダンサーのオールドリッチノヴィの名前でジーンの手術代金を病院にお金を預けたのか?実の父親の名前は完全に抹消したいような辛い過去があったのか?
ジーンが失明しない明るい未来にとってセルマが選んだ名前がノヴィならば、ジーンが手術によって生まれ変わることを何よりも望んでいたことを彼女が希求していたのだろう。彼女の妄想と簡単に片付けてしまいたくはない。
節約してお金を貯めている理由はチェコにいる父親に仕送りをしているからだと周りには説明し、真実を隠している。遺伝病であることをまだ子供のジーンには隠したい気持ちはよくわかる。キャシー(カトリーヌ・ドヌーブ)は眼科受診に付き合っているので、セルマの目が相当悪いのは知っている。セルマの唯一の楽しみは地域の劇団でのミュージカル劇の練習。しばしば仕事中にミュージカルの妄想に耽ってしまう。様々な工程の機械が出すリズミカルな音に触発されるように。工場の同僚たちはみなセルマに親切で、なかでもトラックで通って来ているジェフはトラックで送ってあげると熱心に誘ってくる。セルマに気があることがバレバレ😅「結婚するなら相手はジョンだけど私は結婚しないの」と、きっぱりと断るセルマ。実際、恋をしている暇もなく、息子が一番大事なセルマに隙はない。セルマを気遣い、いつもサポートしてくれるキャシー。劇団のメンバー(看板女優)でもある。キャシーはジョンに「セルマはあんたに絶対ホの字だ」とフォローする。ナイス👍アシスト。みんなに守られて暮らしているセルマ。
ジェフとの鉄橋の幻想シーンで歌われる「見たいものはみんな見たから、悔いはないの。」
セルマの無垢な純粋な心。欲を出したら限りがない。
セルマは闇の中で踊っているのではない。とっても明るい場所で輝きながら踊っているのだよ。それが妄想のなかであっても。
遺伝する病気と知りながら、それでも私は産んでみたかった。赤ちゃんをこの手に抱きたかったから。
ピュアーマインド。
これほど、純真無垢でイノセントなセルマを責めることは私には到底できない。
誰でも自分の子供には財産を少しでも多く残してやりたいと思って働いている。そして、迷惑かけたくないと思って悪徳老人ホームに入ったり、アホらしい保険に入ったりする。
当たり前。
セルマが自分の心に耳を澄ませて決めたことは精一杯の選択。
ジーンへの無言のメッセージ。ジーンがどう受け取ろうがセルマの思いは真っ直ぐなのだ。わかってくれなくてもいい。無償の愛。
音楽やミュージカルが現実逃避になって生き続けられている人間はこの世に自分を含めてたくさんいる。それをわかっていながら、こんな残酷な映画を作る監督が私は大キライだ。