劇場公開日 2021年12月10日

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「これは最後の歌ではない」ダンサー・イン・ザ・ダーク nagiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0これは最後の歌ではない

2018年8月9日
iPhoneアプリから投稿

この世に生を受けた以上、生きなければいけないとするならば、その意義とは何処に見出すべきであろうか。

本作はBjörkの名演と共にそこに強く訴えかける。

生を受けても、世界は不条理に溢れていることもある。セルマはそうだった。遺伝性の視覚障害に光を奪われ、生きがいであるミュージカルを諦め、仕事も諦め、友人にもことごとく裏切られた。

それでも彼女が闇の中でもがき続けるのは、彼女の一番の宝物の息子のためだ。全ては彼のために。その為に必要なものはもう全て見た。見たいものは、空想で。

彼女はジーンを産んだ理由を「抱きたかったから」と語る。彼女にとって、これ以上は贅沢なのだ。息子の手術の成功に、使命を全うしたと悟ることで、死への恐怖は超克した。

彼女の意志は、厳しく大切に育て、命を賭して守った息子「ノヴィ」に継がれた。その意志は、生きがいであったミュージカルという形で、そして「最後から二番目の歌」とする事で、永遠のものとなる。

「これは最後の歌ではないのよ。」
死する事でその意志が周りの人間の中で永遠のものとして生き続ける。
これはホドロフスキーが永遠のテーマとした自己超克に通ずるものだが、もしかすると人生の意義とはそこにあるのかも知れない。

nagi