劇場公開日 2025年10月24日

「リュック・ベッソン製作による某ハリウッド大作風アクション」ドライブ・クレイジー タイペイ・ミッション 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 リュック・ベッソン製作による某ハリウッド大作風アクション

2025年10月28日
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鑑賞方法:映画館

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【イントロダクション】
リュック・ベッソン製作。台北を舞台に、アメリカ麻薬取締局の捜査官が因縁の麻薬王と対決。かつての恋人との再会を果たす姿を描くフランス・台湾の合作のアクション・スリラー。
リュック・ベッソンが代表の「ヨーロッパ・コープ」が台北映画委員会の支援を受けて製作・配給し、台湾の台北で撮影が行われ、舞台も台北である。リュック・ベッソンは共同脚本にも参加。
主演は『ワイルド・スピード EURO MISSION』(2013)のルーク・エヴァンス。ヒロインに『薄氷の殺人』(2014)のグイ・ルンメイ。麻薬王クワン役に『ワイルド・スピード』シリーズのサン・カン。監督・脚本にジョージ・ホアン。

【ストーリー】
アメリカ麻薬取締局(DEA)の捜査官、ジョン・ロウラー(ルーク・エヴァンス)は、中華料理店への半年間に及ぶ潜入捜査にて、台湾の魚介類商売による億万長者クワン(サン・カン)が裏で行っている麻薬密売の証拠を探っていた。一緒に潜入捜査していた仲間の正体がバレた事で、料理店を半壊させる程の騒動に発展してしまうが、倉庫に運び込まれていた大量のコカインを押収する事に成功する。

しかし、それだけではクワンを窮地に立たせるには至らず、ジョンは決定打となる情報を欲していた。そんな中、台北から匿名でクワンの会社の帳簿を提供するというメールが届く。ジョンは上司に報告するが、匿名の密告には信憑性が無いとして却下され、先日の騒動もあり捜査から離れて休暇を取るよう促される。諦めの付かないジョンは、休暇を利用して偽名で台北へ向かう事にする。

一方、台北ではクワンの会社は内部告発によって漁業に関する違法行為についての裁判に立たされ、世間の注目を集めていた。15年前のある出来事をキッカケに、彼と強制的に結婚させられていた妻のジョーイ(グイ・ルンメイ)と息子のレイモンドは、クワンとの生活を受け入れざるを得ない状況にあった。しかし、レイモンドはクワンを父親として受け入れてはおらず、彼の事業によって大量のイルカを殺害している事から犯行的な態度ばかりを示していた。

ある日、レイモンドはクワンと部下達から拷問を受ける。会社の違法行為を密告し、帳簿を盗んだのは彼だったのだ。金庫に取り付けられていた監視カメラの映像からその事が判明し、クワンはレイモンドに帳簿の行方を尋ねる。その時既に帳簿はジョンの宿泊する「マリオットホテル」に届けられており、ジョンは匿名のメールが本当であった事に驚きつつ、帳簿に記載されていたクワンの麻薬取引の記録を入手する。帳簿が人の手に渡った事を知ったクワンは、部下達にジョンを始末し、帳簿を回収するよう向かわせる。

ジョーイとレイモンドは隙を突いてクワンの拘束から脱し、ジョンに助けを求めて彼の居るマリオットホテルへ向かう。レイモンドはクワンに偽の部屋番号を教えていた為、ジョーイ達はクワンの部下達より先にジョンと出会う。しかし、実はジョンとジョーイは15年前に恋人関係にあり、レイモンドはジョンの息子だったのだ。

【感想】
リュック・ベッソンが代表取締役を務めるフランスの製作スタジオ「ヨーロッパ・コープ」による本作。カーチェイスを取り入れたシナリオ、出演にルーク・エヴァンス、サン・カンという顔触れから、ハリウッドの特大ヒットシリーズである『ワイルド・スピード』シリーズを模倣しているのは明らか。
内容も潜入捜査官と美しいヒロインのロマンス、麻薬王との対決と、あちらのシリーズでやって来た内容の継ぎ接ぎで、新鮮味は無い。
このように「ヒット作品の要素」の詰め合わせ作品なのは間違いないが、だからこそ、極端につまらなくはならないとも言える。そんな内容だからか、パンフレット制作なしというのは些か残念。

特に、ジョンが中華料理店の厨房でクワンの手下達と繰り広げるアクションは前半の見せ場として面白かった。打撃の効果音が控えめで迫力不足な印象は拭えないながらも、閉鎖空間でのアクションの組み立ての面白さと主人公の格闘センスを存分に味わう事が出来る。
ジョンの立場やクワンとジョーイ達の関係性、ジョンが台北に向かうまでの流れがテンポ良くスムーズに描かれており、前半部分のストーリーテリングは見事である。

しかし、そんな前半のテンポ良いストーリー展開から一転、中盤でジョーイの実家である漁村へ避難し、2人の出会いが語られ出した辺りからストーリー展開のテンポが急激に失速し出し、終盤に掛けてイマイチ盛り上がりに欠けたのが残念。特に、クライマックスのアクションは前半あれだけ頑張っていただけに、息切れせずに更なる盛り上がりを見せてほしかった。
ジョンとクワンによる映画館でのラストバトルも、観客の老夫婦の台詞が度々挟まれるのだが、完全に盛り上がりを阻害しており、せっかくの2人の頑張りを台無しにしてしまっていたのは残念である。

そんな本作最大の特徴は、天才ドライバーがヒロインのジョーイである点だろう。『ティファニーで朝食を』(1961)のオードリー・ヘプバーン風の衣装に身を包んでの登場、真っ赤なフェラーリをハイヒールを脱いでペダル操作を万全な状態で試乗し、制限速度も信号も無視して疾走する姿はハッタリが効いていて見応えがあった。演じたグイ・ルンメイの存在感も素晴らしく、その風貌は『ガメラ3/邪神〈イリス〉覚醒』(1999)の頃の前田愛を彷彿とさせる(奇しくも、両者とも1983年生まれ)。
しかし、そんな天才ドライバーとしてのキャラクター設定が後半は全く活かされないのは残念で仕方なく、非常に勿体ないと感じた。どうせならば、クワン達との熾烈なカーチェイスの果てにジョンとクワンの一騎討ちが見たかったのだが、製作費や台北での公道の撮影許可・スケジュール調整等が難しかったのだろうか。

主演のルーク・エヴァンスは、『ワイルド・スピード』では敵組織のボス役だったが、本作ではDEAの捜査官と立場が完全に逆転している。画力のある俳優なので、出ているだけで画面が画的に締まるのだが、過去回想での長髪姿は全く似合わないなと思った。あの短髪ヘアのイメージが定着しているからなのだと思うが。反面、銃を構える姿は素晴らしく、彼を主演に据える意味も分かる。

一方で、クワン役のサン・カンは、本作では麻薬王と悪役を演じている。悪のボスキャラとしてはイマイチ迫力に欠けるが、『ワイルド・スピード』シリーズで馴染みのある観客には彼の悪役姿は面白く映るだろう。

筋骨隆々でいかにもラスボス戦前に立ち塞がるNo.2の風格だったボロ(パトリック・リー)が、ホテルでの銃撃戦の迫力から一転、クライマックスでは車の運転手をしていたばかりにジョンの放った銃弾でアッサリ退場というのはあまりにも呆気なかった。普通、こういうキャラはジョンがクワンに挑むまで立ち塞がり続け、彼を乗り越えた先にクワンとの一騎討ちがあると思うのだが、そこはテンプレートから外してしまうのかと肩透かしを食らった。

他に印象的だったのは、オープニングでの『PAINT IT BLACK』のイントロとメロディアレンジだ。なんと、冒頭の女性ボーカルによる鼻歌は『ラスト・ウィッチ・ハンター 』(2015)の主題歌であるCiaraによるカバー版というマニアックさである。

ラスト、ジョーイはジョンとレイモンドとの家族旅行先のパリで、ジョンに第2子の妊娠を告げるが、ジョンが考えたように恐らく産まれてくる子供はクワンの子だろう。しかし、エンドクレジット中の映像では、家族4人仲良く新しい生活を迎えようとしている様子が映し出されており微笑ましい。何はともあれ、めでたしめでたしである。

【総評】
ハリウッド大作を模倣したストーリー、魅力的なキャラクター設定や一部アクションと、リュック・ベッソンが台北映画委員会の支援を受けつつ王道アクション映画に挑んでいる姿は好感が持てる。
しかし、物語後半では「もっと描き方あっただろう」と感じる場面が多く、せっかくの題材を生かし切れなかった印象。

良くも悪くも、気軽に鑑賞してすぐに忘れてしまうタイプの“消費型映画”だろう。

緋里阿 純
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