イーニー・ミーニーのレビュー・感想・評価
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イーニー・ミーニー・マイッタナー・モー。 『ベイビー・ドライバー』みたいな映画が撮りたかったのだろうが…。
元カレの起こしたトラブルに巻き込まれ、再び犯罪の世界へ足を踏み入れる事になってしまった元逃し屋の女性イーディの受難を描くクライム・スリラー。
主人公、イーディス・ミーニーを演じるのは『スリー・ビルボード』『バビロン』のサマラ・ウィーヴィング。
ギャングのボス、ニコを演じるのは『オーシャンズ11』シリーズや『運び屋』の、名優アンディ・ガルシア。
Disney+限定配信作品。『デッドプール』シリーズ(2016-)のクリエイター、レット・リース&ポール・ワーニックのコンビが製作を務めていると聞き期待していたのだが。うーん……。
主演を務めるサマラ・ウィーヴィングは、あのエージェント・スミスでお馴染みヒューゴ・ウィーヴィングの姪っ子さん。叔父さんは一度見たら忘れられない凄まじい顔面力を持っているが、サマラさんはそれとはベクトルの違う正統派美女であり、上映時間いっぱい見目麗しい彼女を堪能する事が出来る。女優を売り出すプロモーション・ビデオとしての役割は十分に果たしていると言えるだろう。
成功率100%の「逃し屋」が主人公といえば、アンセル・エルゴート主演作『ベイビー・ドライバー』(2017)が記憶に新しいが、本作の第一印象はこの映画によく似ている。
妊娠発覚をきっかけに元カレの住まいを訪ねた所、その男が何故かリンチされており、それを助けた事で雪だるま式に面倒に巻き込まれてゆく…というストーリーラインは面白く、特にイーディが素っ裸の元カレ、ジョンと共にギャングから逃げ回る序盤のカーチェイスシーンはテンションアゲアゲッ✨『デッドプール』風のお下品でおバカで暴力的な展開に「おっこれは良い湯加減の映画ですぞ〜♪」とワクワクさせられた。
イーディとニコの関係性は『ベイビー・ドライバー』でのベイビーとドク(ケヴィン・スペイシー)のそれとよく似ており、ギャングのボスに強要されて犯罪計画に加担する所など、まぁ素直なほどに『ベイビー』をなぞっている。
このニコを演じたアンディ・ガルシアの演技が良い。中盤で登場する彼の存在が、それまでの浮かれた物語をギュッと引き締める。クライマックスで見せる渋みも流石で、出番は多くないにも拘らず、結局この映画で一番記憶に残っているのは彼の演技だったような気がする。こういう名優が1人出演していると、それだけで映画の格式が1段上がる感じがしますねぇ。
中盤以降はケイパームービーへとジャンルを変えるのだが、ここからがまぁ残念。
まず、チーム犯罪ものの魅力であるメンバー間のケミストリーが全く生まれていない。というか、イーディとジョン以外はほとんどモブみたいなものなので、化学反応を起こそうという気ははじめっからなかったようだ。だったら何でケーパームービーにしたっ!?
ポッと登場したライバルキャラ、パームも魅力に乏しく、彼とのバトルチェイスが盛り上がらないのも残念ポイント。主人公2人とは因縁の仲らしいが、そんなん観客は知らんからね。その因縁はドラマの中で構築していって欲しい。
最初はチームに在籍しているが、ギリギリのところで仲間を裏切るとかそういう役回りならもう少し彼のキャラにも厚みが出たと思うが…。
そして大きな問題は、イーディのドライビングテクニックがどれだけ凄いのか、イマイチ観客に伝わらないと言う点。
彼女の功績はセリフの中で語られるのみで、実際運転するのは序盤の逃走シーンとクライマックスの現金強奪シーンくらい。この2シーンからしか彼女の凄さはわからないのに、撮影の拙さのせいかなんかモッサリしていて全くスピード感が伝わらない。しかも、現金強奪に関しては結局成功してないしね。何であれで捕まらねーんだよっ!イーディの腕が凄いんじゃなくて警察が無能すぎるだけだろこれっ!!
何より一番ガッカリしたのは、前半のアゲアゲな勢いが中盤以降完全に死んでしまった事。
ジョンのクソバカっぷりが物語の推進力になっていたのに、物語が進むにつれて彼がどんどんシリアスになってしまい、そのせいで映画のトーンまでどんよりしてしまう。
「どんな状況からも逃げ果せる女」が、男への未練だけは断ち切る事が出来なかった…とまぁこういうお話にお話に落ち着く訳だが、そこはやっぱりイーディにはジョンからも颯爽と逃げ去って欲しかった。いくら彼女にとってジョンが大切でも、観客は「こいつ早く死なねえかな…」と思いながら作品を観るわけで、いざジョンが死んでもガッツポーズこそすれイーディと一緒になって悲しむ気持ちには到底なれない。
彼をもっと好感の持てるキャラにするか、あるいはとことんまでイーディに執着するヤバい奴にするか、どっちかに振り切って描いていれば物語の転がり方もまた違ったのだろうが…。やっぱどっちつかずが一番良くないね。
『ベイビー・ドライバー』かと思ったらボニーとクライドだった…という変なオリジナリティのせいでよくわからない映画になってしまっている。監督としては『ベイビー・ドライバー』みたいな映画を撮る事に憧れがあったのかも知れないが、それならなぜ『ベイビー』があんなに面白いのか、もっとよく研究してからそのパスティーシュに挑戦して欲しい。こんな映画じゃ踊れねーぞっ!!
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