「葛藤を抱えた青年が一歩大人へと踏み出す様を描く」ホーリー・カウ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
葛藤を抱えた青年が一歩大人へと踏み出す様を描く
トトンヌは、少年と呼ぶにはもう身勝手が許されない年頃。かといって大人と呼ぶにはまだ早い。そんな”宙ぶらりん状態”の主人公が突如として一家の働き手となるーーー。出演者の誰もが演技経験のない素人だらけの本作は、この農村エリア出身の新人監督が手掛けているだけあって、若者らのナチュラルで時に生々しい表情や心情を有機的に引き出し、発酵、熟成させた一作である。とりわけ主演俳優の相貌はどこか若い頃のジェイミー・ベルを彷彿とさせるところがあり、目の奥に怒り、不安、戸惑いが渦巻く様はとても魅力的。葛藤を抱えながら大人への階段を昇っていくその姿は、ご当地特産のコンテチーズの製造過程と絶妙に重なる。ラストも決して絵空事の夢を掴むようなものではなく、あくまで「一歩踏み出す」というレベルに抑制されている点が共感を呼ぶ。小さな物語ではあるものの、これまで描かれてこなかった酪農生活のリアルに目を向けさせてくれる良作だ。
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