「どこまでが演技?アドリブ?」ホーリー・カウ TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
どこまでが演技?アドリブ?
カンヌでの受賞など高い評判を聞いていた本作ですが、劇場で1度だけ観た覚えのあるトレーラーでは特別印象に残っておらず。それでも、米国映画レビューサイトの評価もやはり高いようなので、それを信じてチケットを購入です。
舞台はフランス東部のジュラ山脈の西麓に広がる地域。酪農が盛んであり、またこの地域の生乳だけを使って作られるコンテチーズはフランス国内のチーズ販売量ではダントツの1位と言われ、この地域にとっては重要産業の一つ。そして、本作の主役・トトンヌ(クレマン・ファボー)の父もチーズ職人なのですが、この父親はひょんなことから早々にこの物語を退場してしまいます。
ではトトンヌはと言うと、まさに画に書いたような“悪ガキ”であり、父の仕事も手伝わずに友人たちと遊びまわる日々。ところが父が突然居なくなり途方に暮れますが、歳の離れた幼い妹・クレール(ルナ・ガレ)の面倒を見ないわけにはいかず、この村で生きていく道を模索します。しかし、無鉄砲でその場しのぎな言動が抑えきれないところのある彼は失敗続き。それでも彼の本質を見抜き、見放すことなく信じてくれる人達に助けられ、トトンヌは初めて“やり遂げる”ということを経験します。
美しい自然に囲まれ、その自然を利用して生活をしている人々。牧歌的な暮らしや性格を想像しがちですが、実際は生きていくためには金が必要でだからこその“産業”であり、その世界と人間関係は大変に狭い。だからこそ知識や経験は勿論のこと連帯が必要なのですが、若さだけが取り柄のトトンヌはついつい粋がり、その結果自分の居場所をどんどんと狭めてしまいます。その反面、彼の人懐っこい笑顔と気の毒な経緯(いきさつ)に直面すれば、単なる同情に留まらず手を貸したくなる気持ちも確かに解ります。
例えば18歳のトトンヌにとって足手まといな存在であるはずのクレール。冒頭では幼い彼女の言い寄りを足蹴にすらしますが、父の退場によって二人きりになり、健気にも兄をその気にさせて前に進ませる妹の励ましに対し、トトンヌも自分なりに応えていく“兄妹の絆”を見れば最早応援の気持ちが止まりません。
更に、トトンヌと特別なシンパシーを感じ合うマリー=リーズ(マイウェン・バルテレミ)の存在感たるや素晴らしい。トトンヌとの“イチャイチャ”はいい意味でフランス的な解放感と、どこまでが演技?アドリブ?なシームレス感も実に爽やか。青春譚として見事に成立していて、ラストシーンも最高です。
広大な自然と若者の成長、そして恋愛“のようなもの”からのその先を想像させる余韻に、秋の柔らかな日差しと風に吹かれながら作品を振り返る帰り道。オジサンの心は洗われました。若者たちよ、ありがとう。