「コンプライアンス時代の「夜学の女」」ひとつの机、ふたつの制服 KaMiさんの映画レビュー(感想・評価)
コンプライアンス時代の「夜学の女」
ちょっと懐かしい学園風景に浸れるかと思いきや、これは台湾の中高生に向けたキラキラ映画だったのだろうか。すみません、自分たち中年以上の男性が観客で、という気持ちにさせられた。
同じ名門女子高校で、夜間に学ぶ小愛(シャオアイ)と全日制の敏敏(ミンミン)が机を共有する話。学歴コンプレックスを抱える母子世帯の母が、娘に希望を託して名門校の夜間に入学させたという背景は面白い。
夜間部の主役が勤労学生でなくなったのは日本と共通だが、日本の場合は不登校生の受け皿、台湾は学歴挽回のチャンスになっているのね。
優等生のミンミンはただ勉強ができるだけじゃなく文武両道。シャオアイに制服の交換を持ちかけて校門の見張りをくぐりぬけたり、夜のライブハウスに誘ったり。同じ男子生徒を好きになってしまうのも、青春映画にお約束の展開だ。
ミンミンに抜け駆けしてシャオアイとイケメン男子が仲良くなるところは十分ドキドキした。
ついていけないのは、シャオアイに降りかかる困難とその切り抜け方にひねりがなさすぎること。夜間部に偏見を持つ女性に遭遇する場面が典型的だが、「さぁ嫌なことが起きますよ」という描き方で憎たらしさを感じる暇もない。全日生と夜間生が衝突する場面も唐突に始まり、「先生が悪かった」と取りなして終わる。
まさかとは思うけれど、偏見を避けるために学歴コンプレックスや差別をリアルに描くのはやめましたということなのか。
原題の「夜校女生」がスクリーンに出てくるところは期待感が高く、いっそのこと「夜学の女」をレトロに振り切って描いたらどうだったかな。それとも、差別が見えにくくなった現代で内面のコンプレックスと向き合うか。この映画はどちらにもなっていないと思ったのだ。
主人公シャオアイちゃんの眼鏡っ子ぶりはとてもよく、重みのある大人が受け止めてくれればもっと演技が生きたのでは。
母の描き方次第では大人の共感を誘い、余韻がある映画にもできただろう。しかし劇伴が鳴りっぱなしのこの映画は、そうする気がなかったのだろう。
