「ケン・ローチの「大地と自由」」そして彼女は闇を歩く 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)
ケン・ローチの「大地と自由」
潜入捜査という題材を扱いながら、
現実と虚構の境界で、
現代と地続きの問題を静かに問いかける作品だ。
物語の中心にいる主人公が〈実在していたかもしれない〉と感じさせる語り口は、巧妙でありながらも不気味な余韻を残す。
描かれる事件の多くの実際の映像を使用、
そのため観客は、スクリーンの中の潜入捜査官が現実に存在したのか、
それとも物語の中でのみ息づく幻なのか、
判断を保留したまま、静かに引き込まれていく。
潜入先で主人公の心がわずかに揺れる瞬間は、
ジョニー・デップとアル・パチーノの『フェイク』の影がちらつく。
派手な銃撃戦や過剰なドラマ性を排し、
心理的なサスペンスの緊張で観客を魅了する。
感情の振幅を極限まで抑え、
わずかな視線の動きや沈黙の間に物語を託すその手法は、
演出の成熟さ、芝居の技術の高さを物語っている。
また、作品の背景にある社会的リアリティは、
ケン・ローチの『大地と自由』を想起させる。
(youtubeで話しています)
同じスペインを舞台にしている点で通じるものがあり、
時代こそ異なれど、
合法、違法含め理不尽と闘う人々の姿は地続きの現実として響く。
その静謐な語り口の奥にある緊張と真実は、観客の心に長く残り続けるだろう。
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