劇場公開日 2025年8月2日

「「日本人ファースト」が国を覆う今こそ」よみがえる声 La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)

未評価 「日本人ファースト」が国を覆う今こそ

2025年8月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 日本人による差別と暴力に晒されて来た在日コリアンの歴史と現在をドキュメンタリーとして撮り続けて来た朴壽南(パクスナム)監督の足跡を娘さんの朴麻衣(パクマイ)さんと共に辿る物語です。

 まず、冒頭で息を呑みました。「もう少し若い人にも分かり易く撮ろう」と進言する娘のマイさんの言葉に、スナム監督は「若い人に分かり易くと言うのなら、私が作る意味はない」と言い放つのです。これは映画を撮る人、そしてそれを観る人に対する宣戦布告と感じ、思わず背筋が伸びました。

 それから語られる物語は、関東大震災の朝鮮人虐殺から、戦争、そして北朝鮮への帰国事業、そして現在のヘイト社会へとスナム監督の家族が経験し観て来た在日コリアンの生の歴史なのです。

 特に、スナム監督が取材者として関わった、在日コリアン青年による殺人事件・小松川事件(1958)の記録は僕の知らない事ばかりで、加害者のみならず被害者家族の方々の苦渋の言葉には神々しささえ感じました。

 本作は、2時間半近いやや長めの作品なのですが、大刀でこの社会を切り裂かんとする力と熱量に溢れています。スナム監督が語る「被害者の記憶がなくならない限り、加害責任はなくならない」は、胸に留めておきたいと思います。2015年の戦後70年談話で「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と言ってのけたお坊ちゃま宰相に聞かせた言葉です。そんな宿命を背負わせて来たのは、あの戦争を総括しないばかりか書き換えようとする政治と教育の責任なのです。

 そして、上映後のトークが素晴らしかったです。スナム監督は既に90歳で移動は車椅子だし目もかなり不自由なのですが、その言葉は明瞭で、やはり力に溢れていました。「日本人ファースト」が世を覆う現在の日本でこそ観られるべき作品です。

La Strada