「天国に行けない親子も、業火に焼かれたのはより罪深き者だったように思えた」侵蝕 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
天国に行けない親子も、業火に焼かれたのはより罪深き者だったように思えた
2025.9.11 字幕 MOVIX京都
2025年の韓国映画(112分、G)
原作はゴンセリ&ヨンヨンのウェブトーン『침범』
サイコパス幼稚園児に巻き込まれる家族を描いたスリラー映画
監督&脚本はキム・ヨジョン&イ・ジョンチャン
原題の『침범』は「侵犯」、英題の「Somebody」は「誰か」という意味
物語は、2000年と2020年の二つの時代を前後編で分けて描いている
2000年のパートでは、水泳教室のインストラクターをしているヨンウン(クァク・ソンヨン)とその娘・ソヒョン(ギ・ソユ、幼児期:ソ・イェナ)を中心とした物語で、ソヒョンの度重なる危険な行動によって翻弄される母親を描いていく
その20年後にあたるパートでは、遺品整理業をしているチームが描かれ、キム・ミン(クォン・ユリ)と新人のパク・ヘヨン(イ・ソル、孤児院時代:イ・ソヒョン)との確執が描かれていく
この2つの時代には同一人物がいるというテイストになっていて、ソヒョンもしくはヨンウンは20年後の誰なのか、というのを紐解く流れとなっていた
提示される可能性は、「ヨンウン=ヒョンギョン(シン・ドンミ)」で、ヒョンギョンの亡くなった娘がソヒョンであるというパターン
そして、「キム・ミン=ソヒョン」というパターンで、ミンの精神科に入院している母がヨンウンというもの
だが、正解は「ソヒョン=ヘヨン」であり、ヘヨンは孤児院時代の事件以降、別人になりすましていた
この3つのパターンに見えるような構成になっていて、ソヒョンが成長したらどんな人間になっているのかを描いている
ミン=ソヒョンだと、真っ当な人間になったように見えるものの、手癖の悪さも描かれ、望まぬ妊娠なども付随している
ソヒョンが子どもを持ったらどうなるのか、というテーマがあるものの、それがミスリードとなっていた
結局のところ、ソヒョン=ヘヨンだったわけで、サイコパスはどこまで行ってもサイコパスというふうに描かれている
それでも、テーマとしての「家族」というものに拒絶されていくヘヨンが描かれていて、家族という耳障りの良い言葉の残酷さというものが突きつけられていく
ヘヨンがあのようになってしまったのは先天的なものだと思うが、それを矯正することは誰にもできなかったことになる
ある意味、逃げ出した父(ホ・ジウォン)が正解だった、みたいな感じになっている
サイコパス少女につける薬はないのだと思うが、ヨンウンの行動(無理心中)が決定機になっていて、居場所を確保すること(=家族という安住を持つこと)がヘヨンにおける最大の安息となっていた
それが叶わないとなると、全てを壊すという行動に出るのだが、この行動の起因はヨンウンの起こした無理心中であり、さらに自分だけは生き延びるというヘヨンの本質が加味された結果になっていたように思えた
いずれにせよ、なかなか巧妙な語り口で、ミスリードがうまく効果を発揮していたと思う
当初はソヒョン=ミンだと思って見ていて、そんな彼女が子どもを持つことで変わっていくのかな、と感じていた
だが、ソヒョン=ヘヨンということがわかると、一気に話の展開が締まってくる
そこからは生存本能の争いになっていて、孤児院時代のように「炎」が生死を分けるというのも面白い
新しい人生を与えた炎によって消されるというのは皮肉が効いていて、なかなか凝った話だったなあと思った
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