「グダグダな試合の中で感じるもどかしさも、去り行くものには永遠の至福となっていく」さよならはスローボールで Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
グダグダな試合の中で感じるもどかしさも、去り行くものには永遠の至福となっていく
2025.10.23 字幕 MOVIX京都
2024年のアメリカ&フランス合作の映画(98分、G)
1980年代のマサチューセッツ州ダグラスを舞台にした「取り壊される球場」で試合を行うロートルを描いたコメディ映画
監督はカーソン・ランド
脚本はネイト・フィッシャー&カーソン・ランド
原題は『Eephus』で「止まって見えるほどのスローボール」と言う意味
物語の舞台は、1980年代のとある日曜日(10月16日)
マサチューセッツ州ダグラスにある「ソルジャーズ・フィールド」は、老朽化と再開発事業のために取り壊しが決まっていた
その日、最後の試合をするために、アドラーズ・ペイントとリバー・ドッグスの二つのチームが集まり、試合を行うことになった
アドラーズ・ペイントは、エド・モータニアン(ケイス・ウィリアム・リチャード)を中心としたチームで、対するリバー・ドックスはグラハム・モリス(Stephen Radochia)が中心となっていた
グラハムは再開発の工事担当だったが、試合に仕事の話を持ち込まれることを嫌がっていた
主審(ウェイン・ダイアモンド)によって執り行われた試合は、フラニー(Cliff Blake)がスコアラーを務め、少しの観客と選手の家族たちが見守る中で行われていった
物語は、試合に際して久しぶりに集まった野郎たちが軽口を叩きまくると言う内容で、その何気ない一言がキャラ付けをしていくと言う感じになっている
だが、選手だけで20人、審判が4人、観客が複数人いて、家族も数名いるので、誰が誰なのかを把握するのは非常に難しい
ユニホームを着た髭面のおっさんがたくさん登場するし、背番号はあるけど名前は書いてないので、数少ない固有名詞から人間関係を導き出すのは至難の技のように思える
ちなみに、冒頭ではラジオのアナウンサー(フレデリック・ワイズマン)が街の置かれている状況を話したり、当時流れていたラジオCMなども紹介されていく
なので、当時を知る人の方が楽しめる内容になっていて、そんな中で名残惜しさから「どうしても試合を終わらせたい」と言う想いで試合が行われていく様子が描かれていた
アドラーズ・ペイントは、監督&投手のエドが姪っ子の洗礼式のために退場するし、審判も時間が来れば残業しないと帰ってしまう
そんな中で試合を続行するためにフラニーがバックネット裏から審判をすると言う流れになっていて、さらに日没とともに何も見えない中で試合が行われていく
そうして、何とかキリをつけた格好で試合は終わるのだが、この試合を最後にフラニーはみんなの元を去ってしまったように描かれていた
彼はリバードッグスのユニフォームを着ていたが試合には参加しておらず、おそらくは健康面が理由で参加していないのだと考えられる
それが高齢になってからなのか、若い頃からなのかはわからず、彼自身にはモデルとなる人物がいたこと
ある意味、フラニーに対する追悼の映画にもなっていて、長年の付き合いの終わりがあったからこそ紡がれた物語のように思えた
映画内の登場人物を脳内構築するのは難しいが、映画の冒頭でスコアブックのようなキャストロールがあるので、しっかり見ておけば「どの選手を誰が演じて、何番を打ってどこを守っているのか」がすべて書かれていた
このあたりは野球用語の略語の知識が必須だが、ポジションや打順はそこまで大した問題ではないと思う
それよりも、恋人メラニー(イザベル・シャルロット)が来ているエイドリアン(ジョニー・ティラド)とか、家族が見に来ているビル(ラッセル・J・ギャノン)がどの選手なのかは把握したい情報のように思えた
いずれにせよ、試合のスコアをつけながら観戦しているフラニーの視点になっていて、彼の紡ぐ野球界の偉人たちの名言というものが「章の区切り」のようにも思えた
ベーブ・ルースは有名だが、ヨギ・ペラとか、サチェル・ペイジ、ハンク・アーロンなどを知っている日本人だとマニアに近いと思う
日本だと長嶋茂雄、王貞治などのようなレジェンドたちなのだが、そんな彼らの名言が登場してもピンとは来ないかもしれない
だが、そこで登場している名言の数々は、試合経過の中でフラニーが感じて思い出した言葉となっていて、意味のあるものとなっていた
そう言った視点で見ると、試合に参加できないものの悲哀と、試合に臨みながらも全力で向かえない者を見る歯痒さというものが感じられるかもしれない
その上でフラニーは「この時間は最高の時間だった」と結んでいた
原題にあたる「Eephus」は「止まって見えるほどのスローボール」という意味なのだが、フラニー目線からすれば「この至福の時が永遠でありますように」という意味になる
それを思うと、とても切なくて悲しい物語だったのかな、と感じた
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