劇場公開日 2025年10月10日

「【ハウス=第二次世界大戦後の世界】」ハウス・オブ・ダイナマイト abuさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0 【ハウス=第二次世界大戦後の世界】

2025年10月29日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

核ミサイルを互いに向け合いながら“平和”を口にする――そんな現代社会の偽りを鋭く突いた社会派スリラードラマ。冷戦以降の「核抑止=平和」という歪んだ論理に真正面からメスを入れている。

アメリカが他国に核を向け続けながら、いざ自国にミサイルが飛来した途端に右往左往する。その無様さが皮肉とともに描かれ、痛快ですらある。たった一発のICBM(大陸間弾道弾)すら防げない現実――それは、複数の核攻撃にはまったく無力であると自ら認めているようなものだ。

物語は、発射から着弾までのわずか19分間という極限状況で、指導者たちが「撃つのか」「迎撃するのか」「話し合うのか」を迫られる。その混乱と恐怖、そして覚悟のなさがリアルに描かれ、観ていて息が詰まる。理性も倫理も失われ、ただ「生き残りたい」という本能が暴走する人間たち――まさに“火薬庫(ハウス)”の中で暮らす私たちの写し鏡だ。

女性監督の緻密な演出と冷徹な視点が光る作品で、戦争映画でも核映画でもない、「現代の人間ドラマ」としての完成度が高い。静かな演出の中に燃え盛る怒りと警鐘が込められた、必見の社会派スリラーだった。

abu