「三谷幸喜の映画作品としては成功作。役者の良さが出ている。」三谷幸喜「おい、太宰」劇場版 mac-inさんの映画レビュー(感想・評価)
三谷幸喜の映画作品としては成功作。役者の良さが出ている。
三谷幸喜、脚本監督で、ワンカットワンシーンで撮った映画。
海辺を舞台に、太宰治を題材に、その時代にタイムスリップしたり、現代に戻ったりのコメディ。役者は、田中圭、梶原善、小池栄子、松山ケンイチ、宮澤エマの四人のみ。
三谷幸喜の映画は、正直言って当たり外れが多い。基本的に映画監督向きではない三谷監督がなぜに映画でワンカットにこだわるか。それは映画的な醍醐味というより、演劇的な濃密度を高めるためだったと推察。それに当然ながら順撮りになることも大きいと思う(普通映画制作では順撮りはあまりない)。だから映画的な面白さは弱い。(ただ撮影スタッフがバタバタしている様子は目にうかぶ。それだけで楽しくはなるが。)
それぞれの役者の演技を味わってもらうために、舞台よりもより多くの観客が見られること、その一点で映画で、それもワンカットでそれぞれの役者の演技合戦の臨場感を味わって欲しいと思ったのではないだろうか?
その意味では、舞台的な面白さでそれぞれの役者の良さが出ている。
田中圭は、なんとも無邪気で歳を取ってもいつまでも子供っぽくて、それが魅力な役者だと再認識した。永野芽郁が惚れるわけだ。
梶原善は一人三役でそれだけで楽しい。いつものとぼけたノリで笑わせてくれる。で、一人三役なので画面外のところも想像させ、話と関係ないのにハラハラさせる。
小池栄子は、相変わらず楽しいし、特にAirPodsで音楽を聴きながら(布袋さんの音楽らしい、映画では流れない)、踊り狂うシーンは笑えた。
太宰役の松山ケンイチはある意味ソンな役回り。あまり見せ場的なものがない。だけれど、この役がしっかりしていないと全てが崩れる。その意味ではさすがである。胡散臭い太宰になっていて、それらしく思える。本当の太宰もこんな?まさかね〜と。
白眉は、宮澤エマ。彼女が淡い中年女性の美しさと、どこか諦観的で、でもまだ沸々とした情熱を感じさせて、とても色っぽく思えた。とても素晴らしいバイプレーヤーになった。もっといろんな作品に出てもらいたい。(鮮明に記憶に残るのは朝ドラ「おちょやん」の芸者上りの義理の母親役。これが良かった)
と演技陣が楽しい映画でした。この手法は三谷幸喜に合っていると思う。