「主張先行型」偽りなき日々 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)
主張先行型
冒頭の〈誰でもない、何でもない〉
主旨はおもしろいシークエンスなのに、
観客に明快に伝わっているだろうか。
他にも興味をそそられるシークエンスを幾つも提示するものの、
それらが観客に明快に伝わっているだろうか。
個々のカットで具体的に何を伝えたいのかが曖昧で、
焦点が絞り切れていない印象を受ける。
こういう作品に多いのは登場人物の背景を説明する小道具(聴いている音楽、本棚の書籍、壁の絵など)が、
物語と乖離し、単なる記号として浮いてしまっているケースだ。
シナリオに有機的に馴染んでおらず、
作り手の主張と物語の筋が噛み合っていないのだ。
当然、観客は登場人物の内面に深く共感することが難しくなる。
本作が目指しているのは、
現実の不条理とか、
論理よりも感情とか、
机の上で勉強するより、
書を捨てて街に出て感じることの重要さ、
なのかもしれない。
しかし、
その意図を達成するには、
観客の感情に訴えかけるための具体的な主人公の描写が不可欠だ。
ただ小道具を提示するだけでなく、
イギー・ポップやジャニス・ジョップリンに頼ることなく、
登場人物の感情や行動にどのように影響を与えているのかを、
雰囲気ばかりではなく明確な映像表現で感じ取りたい。
「二十歳の原点」を見直してみる。
コメントする