劇場公開日 2025年12月5日

「原作勢ですがかなり満足できました。」WIND BREAKER ウィンドブレイカー とわちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 原作勢ですがかなり満足できました。

2025年12月13日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

驚く

斬新

※原作既読・実写化に強い忌避感を持っていた立場からの感想です。

結論から言うと、この映画はもっと評価されていいです。本当に。満点はつけられないけれど、5点中4.5点の「当たり映画」でした。

まず正直に書きます。ビジュアルは原作に似ていません。宣材写真も正直もったいない出来で、原作ファンとしては不安要素が多く、私自身も最初は「観に行かない」と決めつけていました。その点については、実際に観た今は少し反省しています。本当にすいませんでした。食わず嫌い、案ずるより産むが易しということですね。
見終わった今では、丁寧に映画を作ってくださり感謝しています。

そして、映画レビューを生まれて始めて書きます。
それほど期待以上に良かったです。

まず、この映画は「原作再現」を期待すると合わないと思います。アレンジはかなり強く、原作通りを求める方には向かない部分も確実にあります。ただし、それは雑な改変ではありません。原作の意味や感情線を分解し、映画の文法に正しく置き換えた再構成だと感じました。

特に脚本が素晴らしい。原作をきちんと読み込んでいないとできない構成です。原作では後から出てくる要素やシーンを、映画の序盤や別の文脈に配置し直しているのに、不自然さがない。順番は大胆に入れ替えられているのに、キャラクターの行動原理や関係性は一切崩れていません。

象徴的なのが序盤の導入です。原作では桜と交流のない男子生徒がきっかけになりますが、映画では楡井くんが起点になります。これは映画として非常に理にかなっています。観客はまだ桜に感情移入しきっていない段階で、名前も思い入れもない男子生徒が殴られても心が動きにくい。しかし、桜に憧れ、感情を向けている楡井くんが傷つけられる構図なら、「助けなければ」と自然に思える。この選択は、観客の感情導線を理解していないとできません。

また、原作冒頭の桜が足を切られる描写をカットし、序盤はバットで殴られるシーンに変更した判断も的確です。足の負傷は映像的に分かりにくく迫力に欠けますが、バットのシーンは視覚的にも感情的にも分かりやすい。その流れで柊がバットを折る演出は、映画として非常に強度があり流れがとても綺麗です。

さらに秀逸なのが、ケガと手当ての配置です。確かにケガはしますが、映画では違う演出になっています。映画序盤の桜は人に強く警戒心を持ち、誰にも心を許していません。その状態で最初から優しさを受け取らせてしまうと、後の展開に違和感が出る。だから癒しのシーンを後ろに回し、終盤のやり取りと対比させる。ここで桜の人間的成長がきれいに立ち上がります。切り取り方が本当にうまい。

原作にないシーンも印象的でした。特に、亀ちゃんと桜の組み合わせが好きな方は見ることを強くオススメします。宣材写真では亀ちゃんはそこまででしたがあれは亀ちゃんでした。とてもいい解釈です。
原作にはありませんが、亀ちゃんと桜の組み合わせが好きな者としてはかなり刺さりました。本当です。ビジュアルは似ていないのに、「亀ちゃんだった」と感じられたのは、キャラクター解釈が的確だったからだと思います。
あとは楡井くんの手帳のシーン。あれはちょっと泣きました。気になる方は是非。

だからこそ、宣伝の仕方が本当に本当にもったいない。再現売りではなく、最初から解釈売りをするべき作品でした。原作至上主義の方には舞台版という、原作準拠で本当に完成度の高い選択肢もあります。この映画は別のアプローチで原作に向き合っています。

一言で言うなら、この監督はピカソ型です。写実的にそっくり描くタイプではない。でも、構造と本質を誰よりも理解した上で分解し、映画という画材で描き直している。だから壊しているように見えて、ちゃんと“それ”に見える。

ビジュアルで敬遠してしまった方には、ぜひ一度観てほしい。原作を読み込んでいる人ほど、脚本と構成の巧さに唸る映画だと思います。

とわちゃん
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