劇場公開日 2025年7月18日

「自分ファーストの中国ならではの事件」盲山 かもしださんの映画レビュー(感想・評価)

2.5自分ファーストの中国ならではの事件

2025年7月18日
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鑑賞方法:映画館

日本でもニュースで話題となった中国の片田舎で起こった嫁の監禁事件。
本人の意思とは無関係で売買され、ただ子を産む為だけに連れて来られた嫁の事件を基に作られた本作は中国で上映禁止となり、検閲で20ヶ所以上もカットされ、尚且つ中国の国内向けと海外向けではエンディングまでもが違うという曰く付きの作品です。
日本では未公開ながらも数十年前に監督の名前と共に話題となり、一部のコアな人々から「中国の今」を描いた胸糞映画として騒がれた問題作でもあります。

中国側からすると映画そのものが劇薬。
人権問題を軽視した中国の実情が明確に描写されています。
嫁を買う為に金を払った家族は正当な権利者であり、逃げ出す嫁の方が問題。
身分証もなく喚き散らす嫁に対して、村人は勿論、警察でさえも味方なんてしてくれません。
しまいには村の女性から「私たちも同じ。諦めた方が楽だ」と言われる始末。
愕然とさせられました。
美しい映像にも関わらず、のどかな田園風景からも、山々に囲まれた牧草地帯からも、恐怖と絶望しか感じませんでした。

主役を含め、主要キャスト以外は撮影現場で使った村の人々という点も「怖さ」に拍車をかけてきました。
特に、村の子供たちには絶句させられます。
監禁された嫁を窓から覗く子供たちの笑顔や村に連れ戻された嫁が乗る軽トラに群がってくる子供たちの悪びれる様子もない態度に背筋が凍り付きました。
こんな異常な事態が彼らにとっては「他愛もない日常の一コマ」に過ぎない出来事なのだという事が一発で伝わるシーンとなってますのでお見逃しなく。

映像自体は、殆ど派手なものがなく、日常生活を淡々と描写しているだけなので余計に怖くなります。
リアルに感じてしまう人にはキツい作品なる事でしょう。
逆にド派手な映像を求める人には物足りない作品になってしまうかもしれません。
どちらにせよ鑑賞には吟味が必要。
幾ら一部のコアな映画ファンにとって待ち望んだ日本公開とはいえ、扱っているのは中国の闇(社会問題)。
劇場も限られ、1週間だけの上映なのでよく考えてから観に行く事をおすすめします。

余談ですが、ヤン監督は本作の前に撮った「盲井」でも地方の出稼ぎ労働者が起こした事件を描き、本作の後に撮った「盲道」でも盲人になりすまして人々から金を騙し取る詐欺師を描いたりと、中国が抱える社会的な問題に焦点を当てた作品ばかり手掛けていました。
本作の上映を機に、他の作品がも日本で観れるようになれば良いですね。

かもしだ