「オスロの空気感の中、重いテーマを軽やかに描く」SEX Toruさんの映画レビュー(感想・評価)
オスロの空気感の中、重いテーマを軽やかに描く
オスロ 3つの愛の風景トリロジーの中から、時間が合う『SEX』を鑑賞。
この作品は、第74回ベルリン国際映画祭 パノラマ部門 エキュメニカル審査員賞・ヨーロッパシネマレーベル賞・国際アートシネマ連盟賞の三部門で受賞している。
ノルウェーのオスロを舞台に、妻子ある煙突掃除を生業とする男性二人を中心に描かれるドラマ。一人の男は、客の男性と一度きりだが肉体関係を持ち、それに刺激を感じたと打ち明け、その出来事を妻にも話す。
もう一人は、毎晩のように見る夢の中で、デヴィッド・ボウイから女として見られ、解放感を得る感覚に陥っている男。
それぞれの妻たちは女性らしい現実的な反応。男性と関係を持った方は、夫婦仲がこじれ思い悩み、デヴィッド・ボウイに女として見られた男性は、声変わりしたと思い込んだりという風変わりな展開。
二人ともゲイではなく、セックス、愛、ジェンダーの境界に悩む男性ならではの未熟な姿を、台詞のやりとりが非常に多い中、描いていく。
重いテーマながら、けして重くせずむしろ軽やかな流れを感じる造り。オスロの街の景色やそれぞれの家庭、家族とのつながりを淡々とスクリーンは映し出していく。
性と愛について考えさせられる内容でもあり、見る者によって捉え方は色々という映画作品。
煙突掃除という日本にはない職業、単なる汚れ仕事でもなく中流以上の所得層。新婚カップルが煙突掃除人と出会うと幸せになるという逸話があり、見知らぬ新婚カップルと写真に写るシーンがあったり。
全編にわたり、北欧の独特な空気感を深く感じ不思議な感覚を覚える。特段の展開はない中、あっさりしながらも何処か温かさを覚えるエピローグが印象的。
起承転結の物語なき、映画マニア向け作品。他の2篇も観てみたい。