「凡人男の理想と終焉」ワン・バトル・アフター・アナザー ヘルスポーンさんの映画レビュー(感想・評価)
凡人男の理想と終焉
中年で凡人のダメ男の魂の叫びとそのダメさに一瞬の美しさを見出すのがダーレン・アロノフスキー監督だとしたら、ひたすらドライにダメ男に現実を叩きつける(ダメ男の方は現実を叩きつけられたことすら分かっていないという)ブラックユーモアを描くのが本作ポール・トーマス・アンダーソン監督だろう。
そして薬中、ダメ男という役柄に不思議な化学反応を引き起こすレオナルド・ディカプリオのこのハイテンションさは、マーティン・スコセッシ監督「ウルフ・オブ・ウォールストリート」から始まり、前作「キラーズ・オブ・ザ ・フラワームーン」に至る。
本作はそんな2人がタッグを組んでまさに近年のPTA作品らしく、そして近年のディカプリオらしい楽しい映画であった。
アル中、薬中の元革命家の父親"ボブ"が、変態警官に追われている娘を救うというプロットである。
その道中で過去の栄光に縋る父親に残酷な現実が立ちはだかる。
本作がすごいのは、ボブは本作で何一つ自分の力で成し遂げていないというその残酷な現実に彼は気づいていないということだ。
革命家グループの合言葉が思い出せない。
活動家の若者達の逃走劇にも着いていけない。(ここの一連のシークエンスは絵面と台詞のシュールさも相まって最高に笑える)
逮捕されて逃げられない。(センセイが裏から手を回してくれたお陰で何とか脱獄)
道も分からない。
因縁の相手にも決着が付けられない。
と最後まで徹底的に凡人であり続ける。
そんな彼と同じく、ひょんなことから一度名誉や栄光を掴んでしまった結果、そこに囚われ、新たな理想に背伸びをして手を伸ばしてしまう男としてショーン・ペン演じるロック・ジョーがいる。
理想の世界として存在する革命家集団と、秘密結社「クリスマス・アドベンチャーズ・クラブ」の世界に彼らは受け入れられない。
ロック・ジョーのように死を持って拒絶されるか、ボブのように受け入れてられないことに気が付かずおバカに生きていくか。
それにしてもこんなにも目が離せないスクリューボールコメディでありながら、ラストのカーチェイスシークエンスはIMAXの画面いっぱいに広がるビスタビジョンと1.43:1のラージフォマットを活かしきった決着!映画館で観て本当に良かったも思える映画だ。
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