劇場公開日 2025年8月22日

「ハッと心掴まれる趣向や語り口がやさしくて心地よい」マルティネス 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ハッと心掴まれる趣向や語り口がやさしくて心地よい

2025年8月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

老いや孤独というテーマを、一握の切実さと可笑しみをまぶしながら描く。そういった意味では、どこの国でも作られる普遍的な万国共通のストーリーとも言えるのだが、しかし本作には決してそれだけでないハッと心を掴まれる趣向や語り口がある。ひとつにはマルティネスという口数少なく、常に険しい表情を絶やさない主人公がなかなか魅力的なのだ。彼のキャラクターや生活のリズムが確立されているからこそ、本作はミニマルな構造にふと別の風が吹き込んでくる時の新鮮さを味わえる。また、下階の部屋で孤独死した女性の遺品を紐解くうちに、だんだん心の内側に別の色合いが芽生え、これまで感じたことのない他者への慕情が溢れてくる展開もユニークで愛らしい。結局のところ、主人公の60歳という年齢はひとつの間口に過ぎず、この映画は年齢や性別に関係なく、すべての観客の心を包み込む。いついかなる時でも、人は変われる。その気づきが優しくて心地よい。

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牛津厚信