「ややあって また見る月の 高さかな」六つの顔 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
ややあって また見る月の 高さかな
終始穏やかな物腰で語る、狂言師野村万作93歳(当時)。杖もつかずその齢で矍鑠と歩く。そりゃそうだ、現役だもの。祖父、父、弟、、そして息子萬斎。万作人格を形作った家族たちを通して、彼の生き方が見えてくる。
萬斎との共演の狂言『川上』をフルで。さすが映画にするだけあって、客席からの視点ではなく、共演者目線のカットや、陰影などの演出が妙。物語に登場するのは、盲目の夫とその妻。落語「心眼」や浄瑠璃「壺阪霊験記」に通じる深い夫婦愛。怒りと融和。二人の、危機を越えた後のからりとした心根の清らかさに、お互いを思う愛情の深さをかんじて涙を禁じ得なかった。あとから考えてみると、お地蔵様が慈悲の施しをしてくださったのは、夫婦の絆を試したのかとも思えてきた。
父万蔵の句、
「ややあって また見る月の 高さかな」
93歳にして貪欲に未だ芸の極みを求める狂言師の凄みがあった。
コメントする