「生命力の圧を感じる演技」六つの顔 コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)
生命力の圧を感じる演技
人間国宝の芸そのものを教科書とした狂言の入門編かつ、究極の「川上」全編記録。
全編をライブビューイングもかくやと言う、臨場感たっぷりの映像として残していることが素晴らしい。
迫力が凄いのだが、鬼気迫るなんて感じではなく。
万作氏が演じる夫が時に葛藤で苦しみに満ちたと思ったら、滑稽にも見え、哀しみと喜びもまた感じる。
人の生き様と複雑に絡む感情がギュッと詰まっている姿を演じる迫力、生命力そのものの圧が凄いのだ。
その舞台の前後を挟むように、行動の記録やインタビューが流れる。
能・狂言という芸能が、父や祖父から引き継がれ、またタイトルにあるように色々な演目の顔(仮面)を被ってきた歴史そのものによる研鑽が今に繋がっているという意識。
野村家をはじめ狂言師の家には、修行過程を指す言葉として、「猿に始まり、狐に終わる」というものがあるそうだ。
深くて面白い。
私も小中学生時代は、無教養で、人の心理などにも無頓着だったために、「能・狂言・歌舞伎・文楽なんて終わったもの」(今でいうオワコン)くらい興味が持てなかったのですが、人生を重ねて様々な映像作品(たとえば黒澤明の映画など)に触れて、歴史や文化の文献などを読んで知識を得て、かつ人間の感情の機微を味わうと、なんて奥の深い世界なのだろうと驚くことになりました。
各家で継がれてきた芸の深みだけでなく、江戸・明治の町民に愛され、将軍・武家や公家などの教養として保護されてきたその歴史には、連綿と続く「日本人の精神性」が現れているのだとも気づかされました。
自分たちに理解できないからなのか、反文化・反知性を恥ずかし気に晒す無能な政治家や、低能なSNS民に叩かれやすい日本文化ですが、世界に誇れるものなのだなという認識を新たに抱きました。