「初歩的な疑問が拭えないまま話は進むのだが、もっと練ることができれば化けたように思えた」エレベーション 絶滅ライン Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
初歩的な疑問が拭えないまま話は進むのだが、もっと練ることができれば化けたように思えた
2025.7.30 字幕 アップリンク京都
2024年のアメリカ映画(91分、G)
謎の生物によって高地に追いやられた人類を描いたSFスリラー映画
監督はジョージ・ノルフィ
脚本はジョン・グレン&ジェイコブ・マーロン&ケニー・ライアン
原題の『Elevation』は「標高、天頂」という意味
物語は、謎のモンスター「リーパー」によって、人類の95%が死滅した世界を舞台にして、標高8000フィートにコロニーを作っている人類が描かれて始まる
リーパー出現から3年後、人類は8000フィート以上が安全圏であると気づき、そこに保護区域を作って生活をしていた
その中のひとつ、コロラド州フロントレンジにある「ロストガルチ避難保護区」では、肺疾患を患う息子ハンター(ダニー・ボイド・Jr)を一人で育てている元鉱夫のウィル(アンソニー・マッキー)がいた
彼の隣家には、リーパーの研究を行っている科学者ニーナ(モリーナ・バッカリン)がいて、彼女はリーパーを倒せる銃弾を模索していた
ある日のこと、コロニーを離れて近くの居住区を見に行ったハンターは、境界線下へと行ってしまい、リーパーに追われることになった
何とか逃げることに成功するものの、元から肺が弱かったハンターは発作を引き起こしてしまう
酸素投与で乗り切ったものの、ボンベに使うフィルターが残り少なくなり、境界線下にある病院から補充せざるを得なかった
そこでウィルはニーナに付いて来てもらうように頼むと、ウィルの友人ケイティ(マディー・ハッソン)も志願してしまう
やむを得ず、集落の知人ハンナ(ショーナ・アーブ)にハンターを預けて、3人はフィルターのあるボルドー市の病院へと向かうことになったのである
映画では、モンスターの全貌はほとんど説明されないのだが、わかっている範囲だと「8000フィート以上には来ない」「食べるのではなく殺すだけ」「銃弾が効かない」「人間が吐き出す二酸化炭素を感知する」というものが会った
それらは全て「プログラミングされたもの」というネタバレがあるのだが、その目的と製造者に関しては「匂わせ」で終わっている
このあたりの科学的な設定をどこまで必要とするかは何とも言えないが、ここまでざっくりとしてしまうと考察のしようがないように思える
一応は、埋め込んだ主らしきものが乗っていると思われる宇宙船のようなものが描かれるのだが、これも「望遠鏡で覗いたら3つの光のようなものが近づいている」ぐらいしか描かれていない
前述のモンスターをどの時点で仕込んだのかも想像の範囲で、それらを包括しても「プログラミングされたもの」で片付けてしまう潔さはあった
ただし、そう言った部分よりも不思議だったのは、「彼らが正確に8000フィートラインを引いていること」であり、保護区に逃げ込んだ人々が無線で情報を共有していても無理筋に思える
大した機器もないし、ラインを引くためにはリスクを犯さなければならなくなる
擲弾(手榴弾を小銃に取り付けて発射させるもの)が効かないとか、コバルトと酸化マグネシウムを混ぜたもの(金属とセラミックスなので常温常圧では反応しにくい)を塗れば相手のバリアみたいなものを貫通するとかは「そうなんだ」で済ませられるが、ライン引きに関しては「どうやって引いたんだろう」というのが付き纏ってしまう
さらに、二酸化炭素を感知するとのことだが、馬も他の動物も二酸化炭素を排出しているので、人間を特定できる理由は必要だったと思う
何が違うのかは色々とあるものの、そもそも「二酸化炭素ではなかった」というネタバレがあっても良かっただろう
この映画に出てくる全ての対応策に関しては「その世界の住人が盲信しているもの」に過ぎないので、そう言ったものが覆される展開が必要だったのではないだろうか
いずれにせよ、設定などは面白く、緊迫した展開があるものの、随所にツッコミどころが満載すぎて集中できない映画だった
普通に観ていて疑問に思うところをいくつか解消するだけでマシなシナリオになったと思うので、詰めが甘いだけのように思う
映画内で「宗教を信じるかどうか」というエピソードもあったので、なおのこと「信じているものを見誤る怖さ」を描いた方が良かっただろう
個人的には「二酸化炭素」も「8000フィート」も嘘だったという展開があって、それは大気の濃度によるというものの方が良かっただろう
8000フィートを超えたあたりでリーパーだけが感知してしまう何かがあって、それが弱点でも良かった
そして、その標高に人が増えて「何かの濃度が変わるためにセーフティゾーンではなくなる」という方が理に叶うのだろう
それは人類を分断状態にすることでリーパー側の安全を保証する意味合いにもなるし、何かを信じて団結する人類が一番怖いというメッセージにもなるので、ラストの反撃にも繋がって、うまくまとまったように思えた
