「”マッチョなアメリカの象徴ボス”はここに居ない、ここにいるのは人間ブルース・フレデリック・ジョセフ・スプリングスティーン」スプリングスティーン 孤独のハイウェイ 菊千代さんの映画レビュー(感想・評価)
”マッチョなアメリカの象徴ボス”はここに居ない、ここにいるのは人間ブルース・フレデリック・ジョセフ・スプリングスティーン
まずはじめに
フレディ・マーキュリーを描いた「ボヘミアンラプソディ」や
ボブ・ディランを描いた「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」
の様な作品を期待して観に行かれる方には絶対!勧めない。
何故ならここには、スタジアムで拳を突き上げるラミ マレック演じる”フレディ・マーキュリー”や、ティモシー・シャラメ演じる生きる伝説”ボブ・ディラン”の様な”華”は無いからである。
まるでドキュメンタリー作品を観ているかの様な淡々とした画づくりには、1985年「BORN IN THE U.S.A. TOUR」日本公演で”ボス”が見せたエネルギッシュな姿は無い。ついついボスの“陽”な面に目がいってしまうが、その実”陰”からの”解放”があの名曲「BORN IN THE U.S.A.」に繋がったかと思うとあまりにも胸が”キュッ”となる作品だ。
この作品が単館上映でなく、何故全国ロードショーで公開されたのか、鑑賞された方には是非考えて欲しい作品であると共に、よくぞこの作品をロードショー公開したと20世紀スタジオには拍手を送りたい。
5枚目のアルバム「ザ・リバー」で初のビルボードNo.1を記録した、7枚目のアルバムではかの有名な「ボーン・イン・ザ・USA」が爆発的大ヒット、そして本作はそんな歴史的アルバム誕生の前作6枚目の「ネブラスカ」製作の裏側を描いている。まさに異色の一枚、アコースティックギターとハーモニカだけで自宅で録音、それもティアックの4chマルチトラック・カセットレコーダーでデモテープ用に録音した物をアルバム化。当時はレコードからCDへの急速な移行期、デモ音源のアルバム発売も異例中の異例だが、そんなシチュエーションでしか出せない”アトモスフィア”なサウンドは類を見ない。
そんな、スプリングスティーンの音へのこだわりが、劇中で登場するスカーリー のカッティングマシーンで録音するシーンに凝縮されている気がする。
デジタル全盛の現代、サブスクで圧縮した音を聴いてる人にはピンと来ないかもしれないアナログな“世界”だが、デジタルの音と音の間には信号には変換されていない”音”が存在している。この作品にはそんな、聴こえている様で聴いていない隠された“音”を映像で見ている様な一作だ。
