劇場公開日 2025年9月26日

「世界は地獄に向かっているのか?」キス・ザ・フューチャー あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 世界は地獄に向かっているのか?

2025年10月2日
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鑑賞方法:映画館

ユーゴスラヴィアという連邦国家がかってあったことをどれほどの人が覚えているのだろう。本作は、ソ連崩壊後の東欧革命の最終段階となる旧ユーゴ解体、ボスニア・ヘルツェゴビナの独立にあたって新ユーゴ(セルビア・モンテネグロ)が武力干渉を行ったボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を背景とする。首都サラエボは4年間に渡って包囲され断続的な砲撃や狙撃兵による銃撃を受けた。また、サラエボが解放された後も南部地区での紛争は続き、スレブレニツァの虐殺などがあった(本作でも取り上げられている)これら旧ユーゴ地帯で起こった抗争の特徴は、軍事的にダメージを与えることのみにとどまらず、一方が他方の民族を排除する、根絶やしにするという民族浄化の色彩が強いところにある。スレブレニツァではイスラム系住民の壮年男性のみが8000人以上も殺害されている。
この映画は、そういった状況を十分に踏まえた(だから単なるチャリティーとかの枠でなく)U2がサラエボ市民と連帯する姿を、当時の映像を絡めつつ描いている。実に感動的である。
ただ、問題は、映画の最後で女性の出演者が言っているように「今こそこのようなコンサートが必要ではないか」というところだろう。
エンドロールで、プーチンとミロシェビッチを微妙に並べて見せているところがある。ウクライナも確かにそうだろう。でもガザは?あの状況は30年前のサラエボの全くの近似型ではないのか。
今の我々には、遅ればせながら空爆を実施して戦争を終わらせたビル・クリントンもいないし、舌鋒鋭くジェノサイドを非難した若き日のジョー・バイデンもいない。ホワイトハウスには狂人がいるだけである。
ユーゴ軍より規律、効率性の高いイスラエル軍はアリ一匹占領地に入れないし、ユダヤ資本の圧力があるからというのは勘繰りすぎかもしれないが音楽家はじめ芸術家たちの支援もサラエボのようには目立ってない気もする。
我々はこの30年間何を学んできたのか?進む先にはもはや地獄しか待っていないのだろうか?

あんちゃん