「犠牲を描き犠牲を軽んじる、矛盾を美化した物語」Sky ふたつの灯火 前篇 KenKenさんの映画レビュー(感想・評価)
犠牲を描き犠牲を軽んじる、矛盾を美化した物語
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正直、この主人公には強い違和感を覚えました。
世界を救うために必要なのは光の生物の命。しかし主人公は「自分の大切な存在を失いたくない」と拒否。
世界を救うための犠牲と個人的な愛情との板挟みは理解できます。しかし多くの兵士が命を落としても彼女は後悔せず、むしろ奪った偉い人達に激昂しナイフを手に突撃。愛情の物語と言えば聞こえはいいですが、やっていることは「自分の願いのためなら社会など知ったことじゃない」という現代の自己中心主義そのものです。
そして迎えるラスト。光の生物の代替手段となるロウソクで光を集め、人から人へ火をリレーする映像が流れます。みんなが皆ロウソクを持っていなかったのは、主人公が孤児故に世間から相手にされず、ごく1部の人にしか行き渡ってなかったのか、ロウソクが量産できなかったのかは分かりません。どのみち亡くなった兵士たちの重みは軽くなり倫理的葛藤も「新技術の登場」であっさり消化されてしまいました。
結局この映画が提示したのは、「犠牲は尊いが、タイミング次第でなかったことにもできる」という便利な論理と、「欲望のために他人を犠牲にするのは悪ではなく美徳」という危うい価値観でした。
愛と責任、個と全体のバランスをどう取るべきかというテーマは深いはずなのに、映画はそこを掘り下げず感情的な行動で物語を進めてしまった印象です。
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