劇場公開日 2025年10月24日

「「新たな世界の道先案内人ライに導かれて」」ミーツ・ザ・ワールド かなさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 「新たな世界の道先案内人ライに導かれて」

2025年11月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

癒される

 擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」をこよなく愛する銀行員の由嘉里は飲み会で酔いつぶれ新宿の路上でうずくまっていた。そこに美しい女性が大丈夫かと声をかけてくれて彼女のアパートに泊めてもらった。美しい女性はライというキャバ嬢で彼女と出会い同居することによって、由嘉里の世界は一気に新しい世界に入っていくことになる。

 夜の新宿の世界。そこで生きているライの友人NO1ホストであるアサヒ、バーのマスターのオシン、作家のユキと出会う。様々な過去や思いをもった人との出会いは銀行員の由嘉里にとっては別世界だ。

 人は当然のようにいろいろな事情をかかえて生きている。ライは「もうすぐ死ぬ」という言葉を繰り返し、300万円を由嘉里に残して死ぬと、ことあるごとに言うのだ。そのことをアサヒやマスター、ユキに話してもみな何も言わない。ライにはライなりの想いと考えがあることを理解しているからだ。だが由嘉里は戸惑う。

 由嘉里とライが買い物をしている。由嘉里が漫画のキャラクターを楽しそうに見ている姿をライは優しい眼差しで見つめている。まるで愛しい人を見つめるように。このシーンがこの映画の核心になっている。愛しい人とずっと一緒にいたいのではなく、愛しい人を傷つけないこと、ライが心に誓ったことなのだろう。

 由嘉里はライに恋人がいたことを聞きだす。今は別れたが今でも彼のことを愛しているという。由嘉里はライのかつての恋人を探し、会わせればライの死の願望が消えると思いアサヒを誘って彼氏の実家へ行く。しかし実家で明らかになったことは・・・・。そして家に帰ると・・・・。

 この映画はライという女性が行き場を失っている由嘉里の道先案内人になり、あらたな世界の扉をあけ、その世界に由嘉里を導くものであった。由嘉里の表情がどんどん明るくなる、アサヒ、マスター、ユキというかけがえのない友人も得る。由嘉里はライが言った「好きというのは相手がそばにいなくてもずっと思い続けることができる」を心の底にずっと留めて新たな世界を生きていく。そこには擬人化漫画のみが心の支えであった由嘉里はいない。人は様々ことを抱えて生きていることを自分の身をもって知った由嘉里は間違いなく新しい世界で一段と大人になったのだ。

 由嘉里役の杉咲花も素晴らしいが、ライ役の南琴奈のかもしだす空気感がこの映画を支えていた。美しく、はかなげで、死を望むように人生を悟りきっているライがいなければこの映画は成立しないといっても過言ではあるまい。また脇を固める板垣李光人、蒼井優、渋川清彦の演技も絶妙であり、由嘉里が踏み出した新しい世界を包み込むような優しさにあふれた三人との親密な関係が由嘉里に居場所を与えていた。

 劇中、由嘉里、ライ、アサヒ三人が仲良く新宿の街を歩いているシーンがある。ただこの三人の心の奥底は誰にもわからない。その想いを松居大悟監督は見事に映像化しスクリーンに投影した。人が抱く想いの複雑さ重さを、軽くなりすぎず、されど重たくなりすぎずライトに描出したことによって、映画に明るさというすがすがしい余韻をのこしていた。

かな
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