「不可侵領域を守るものがアイデンティティだとしたら、その先に行く事は罪になるのだろうか」ミーツ・ザ・ワールド Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
不可侵領域を守るものがアイデンティティだとしたら、その先に行く事は罪になるのだろうか
2025.10.28 アップリンク京都
2025年の日本映画(126分、G)
原作は金原ひとみの同名小説
腐女子とキャバ嬢の邂逅を描いたヒューマンドラマ
監督は松井大悟
脚本は國吉咲貴&松井大悟
物語の舞台は、新宿歌舞伎町
銀行員として働いている由嘉里(杉咲花)には、誰にも言えない「推し活」があって、さらに腐女子としての側面も持っていた
友人たちと合コンに参加しても、腐女子とバラされて空気を悪くされるだけで、現実の恋愛はほど遠くなるばかりだった
ある夜のこと、合コンで悪酔いした由嘉里は、路上でうずくまっていたところをキャバ嬢のライ(南琴奈)に介抱されることになった
ライは彼女を自宅まで連れていくものの、汚部屋に驚いた由嘉里は掃除を始めてしまう
その後、街に繰り出したあと、ライは由嘉里に家の鍵を渡し、「家に帰りたくなかったら、ここに帰ってきたら良い」と告げた
それから二人は一緒に暮らし始めることになり、由嘉里は腐女子を隠すストレスから解放されていく
ライも由嘉里のハマっているコンテンツに興味を示し、その世界を知っていくのだが、その沼にどっぷりを浸かるようなことはなかった
ライは「死にたみ」と言うものを抱えていて、「死を選ぶことができるのはギフテッド」だと言い切る
由嘉里は彼女に生きて欲しくて彼女を理解しようとするのだが、ある日突然、姿を消してしまったのである
由嘉里は彼女を痕跡を辿って、元カレだと言われている藤治(菅田将暉)を探すことになった
だが、両親からは精神病院に入院していると言われ、コンタクトを取ることも難しい状況になってしまう
さらにアサヒは妻(安藤輪子)を慕う男に襲われて、意識不明の重体になってしまう
なんとか一命を取り留めたアサヒは、再び日常に戻ることができたのである
映画は、ライとの生活によって「腐女子でいることに前向き」になる由嘉里が描かれ、恥ずかしがることもなく同僚の恵美(加藤千尋)や万奈(和田光沙)たちにカミングアウトする様子が描かれていく
そして、母親(筒井真理子)と対峙することになり、母親自身も由嘉里を理解しようとしていたことがわかる
そんな中、由嘉里はライの残した300万を元にして彼女のマンションを自分名義に変え、いつでも帰ってきても良いように、インスタグラムに部屋からの景色を毎日アップロードすることになった
映画では、生きづらさを抱えている由嘉里と、生に執着していないライが描かれ、ライがどうなったのかは描かれない
ラストでは、自宅を出ることになった由嘉里の元に藤治から電話が入り、そこでライの居場所を聞こうとする
だが、彼は「僕と付き合っていたのは生きていることを実感するための実験だった」と感じていて、由嘉里との生活は「生きている実感を感じるための時間だったのでは」と続ける
由嘉里はライの本心はわからないままだったが、自分との時間の意味を感じ、そして彼女のマンションで生きていくことを決めていた
自分らしく生きていくことが由嘉里との時間を肯定し、さらにその先を予感させることもあって、彼女はその時をずっと待つことになったのである
ライが彼女の元を去ったのは、ある意味で由嘉里がライの境地に近づいたからであり、自分の助けは必要ない地点まで辿り着けたからであろう
彼女自身は藤治の病気によって自身の責任を感じていたのかもしれないが、相手には伝わらないようにしてきた
そうした中で由嘉里と出会うことになるのだが、彼女にも踏み込まれたくない領域というものがあったのだと思う
それが由嘉里の大阪行きだと思うのだが、それは単にきっかけを探していただけで、そのタイミング(由嘉里が自分から離れる)が重なったから、のように感じた
いずれにせよ、自分自身が誰かと関わりあう中で、他人を変えることはできず、作家のユキ(蒼井優)は、「変えられるのは15度まで」と言っていた
彼女はそれ以上変えようとすると「人は折れてしまう」と言い、それはライと藤治の関係を見てきたことに起因するように思えた
由嘉里の大阪行きはまさに15度を越えようとする行為であり、ある種の不可侵地帯だったのだろう
そう言った意味において、由嘉里はある種の地雷を踏んだようにも見えるし、由嘉里がアサヒとの交流を深めたことに安心したとも言えるのではないだろうか
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