劇場公開日 2025年10月24日

「主人公と観る者、それぞれに訪れる2時間後の奇跡」ミーツ・ザ・ワールド cmaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 主人公と観る者、それぞれに訪れる2時間後の奇跡

2025年10月26日
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鑑賞方法:映画館

 擬人化系日常系焼肉アニメ「ミート•イズ•マイン」をこよなく愛するヒロイン、由嘉里。そんな彼女を、冒頭時点では少し変わっているけれど元気で可愛い(…主人公だし。)と、安直に捉えていた。けれども、終盤に至っては、好きを貫くまっすぐな彼女を、心から魅力的だと感じた。それはきっと、彼女自身の変化であり、観る側である私の変化だと思う。本作は、そんな2時間の奇跡を経験できる作品だ。
 舞台は歌舞伎町。居場所を見つけられず、慣れない酒で酔い潰れた由嘉里は、綺麗な顔立ちながら生活力ゼロのライと出会い、招き入れられるままに共同生活を始める。両極端のようでなぜか惹き合う2人と、彼女たちを取り巻く謎めいた街の住人たち。歌舞伎町は夜の街というイメージだが、本作は朝や昼のシーンもふんだんに盛り込まれている。あちこちで湯気が立つ真夜中のラーメン屋と同じくらい、気怠さの残る朝の神社は開放的で、あたたかい。はじめての夜中のラーメン、はじめての起き抜けのチョコフラペチーノ。彼らと「はじめて」を重ね、たくさん話し、共に時を過ごすうちに、凝り固まりこわばっていた由嘉里の心は、少しずつほどけいく。
 この人は味方、この人は敵、この人はいい人、この人は悪そう…と、物語の人々をつい単純化したくなる。そんな「分かりやすさ」は、日々の生活さえも侵食しかねない。ばさばさとキャラ分けして振り落としてきたものに、彼女は少しずつ気づく。遠いと思った存在がふっと近しくなる不思議、避けずに受け入れてみることで知る味わい。由嘉里とともに、観る者も心のコリをほぐされ、大らかな気持ちになれた。
 見知らぬ他人が、少しずつかけがえのない存在となっていく喜び。その一方で、どうにも埋められない溝が、由嘉里の行く手を阻む。前半がきらきらと弾むような輝きを放っていた分、泥まみれになりうずくまる彼女の姿が痛々しい。そんな彼女に差し伸べられる「手」の、ぎこちなくもあたたかい、絶妙な語りが、じわじわと沁みた。
 原作未読での感想となるが、これは!という名言が散りばめられている点も、本作の魅力。文字を音に置き換えた以上の躍動感を持って、言葉が心地よく宙に放たれる。人の声を介してこその言葉の力が、存分に発揮されていたと思う。改めて、原作を読むのが楽しみだ。
 かすむほどに眩しい朝の光が、彼らを照らし、あたためる。至福のラストシーンを思い返すほどに、笑みがこぼれる。観る人全ての背中を、そっと押してくれる良作だ。

cma
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