劇場公開日 2025年10月24日

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「表現者 杉咲花の実力をじっくり観ることができる。」ミーツ・ザ・ワールド あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 表現者 杉咲花の実力をじっくり観ることができる。

2025年10月26日
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鑑賞方法:映画館

金原ひとみの原作は、この著者にしてはかなり読みやすく明るい内容である。それはひとえに主人公三ツ橋由嘉里の人物設計による。現世から離れた腐女子で漫画キャラおたく。そして恋愛に憧れ婚活もしている銀行員といった統合失調的な傾向を持っている。でも彼女は常に前向きで一所懸命である。周辺にはライやユキや藤治のように希死念慮の強い人々が現れるが、彼女は引っ張られることなく、関わり合いをより深めていきたいと思う。「救う」というのはひょっとして傲岸ではないかと自問自答しながら。要するに生命力の強いヒトなのである。原作の言葉を借りれば死にみが薄いということになるのか。
200ページほどの薄い小説なので、ほぼすべてのエピソードが脚本に折り込まれている。そして世界観を表現するために重要な由嘉里の言動は筋目正しく再現され、杉咲花に言わせると「原作へのリスペクトを感じる」良い脚本ということになる。
ただ本作は一にも二にも杉咲花である。「市子」「52ヘルツのクジラたち」「朽ちないサクラ」「片思い世界」とここ数年間の彼女の活躍は目覚ましい。これらの作品はすべてテーマも世界観も異なるが、杉咲は表現者として素晴らしい足跡を残した。誤解を恐れずいうと杉咲花という女優は化けない女優でいつも外見は同じである。でも彼女はよく切れる小型ナイフのように、作品のもつ曖昧さや表ヅラを切り裂いてその向こうにある真実をあらわにしてしまう。便利といえば便利な役者ではあるが、映画監督にとっては怖いヒトだろう。作品に何も真実がない場合は彼女はそれも思い切り見せてしまうから。役者としての責任感と想像力が裏目に出ることもあるということである。
この映画についてはギリギリセーフというところか。

あんちゃん
かもしださんのコメント
2025年11月1日

コメント、共感ありがとうございました。
よく切れる小型ナイフに膝を打ちました。
お見事な表現です!

かもしだ