「人生いろいろ、幸せそれぞれ」ミーツ・ザ・ワールド おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
人生いろいろ、幸せそれぞれ
■ 作品情報
芥川賞作家・金原ひとみの柴田錬三郎賞受賞作を映画化した日本映画。監督は松居大悟。脚本は國吉咲貴と松居大悟。主要キャストは、主人公・由嘉里役を杉咲花、希死念慮を抱えたキャバ嬢・ライ役を南琴奈、ホスト・アサヒ役を板垣李光人。 その他の出演者に、くるま、加藤千尋、和田光沙、安藤裕子、中山祐一朗、佐藤寛太、渋川清彦、筒井真理子、蒼井優などが名を連ねる。
■ ストーリー
擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」に心血を注ぐものの、自分自身を好きになれない27歳の独身女性、由嘉里を主人公とする物語。彼女の周囲のオタク仲間たちが結婚や出産で新たな世界へと移り変わっていく中、由嘉里は仕事と趣味だけの現状に不安と焦りを覚え、婚活を開始する。しかし、参加した合コンで惨敗し、歌舞伎町で泥酔していた彼女は、美しいキャバクラ嬢ライと出会う。由嘉里は死への願望を抱えるライに強く惹かれ、やがてライと共同生活を送るようになる。由嘉里はライのことが気にかかり、過去の恋人との関係を清算することが、ライの死生観に変化をもたらすのではないかと考える。彼女は、既婚の人気ホストであるアサヒ、辛辣な言葉を放つ作家のユキ、バーのマスターであるオシンなど、歌舞伎町で出会う様々な人々との交流を通じて、ライを救おうと奮闘する。自分とは異なる価値観や生き方に触れる中で、由嘉里は新たな世界へと足を踏み入れていくことになる。
■ 感想
印象的だったのは、主人公の由嘉里がライとの出会いをきっかけに、世界を広げていくその心地よさです。これまでの固定観念や世間的な価値基準に自分を当てはめてきた由嘉里が、その生きづらさから解放されていく様を、杉咲花さんが全身で表現されており、自分もその解放感を共有できたように感じます。また、つかみどころのないライを演じる南琴奈さんの、その容姿と演技が役にこれ以上ないほどピタリとハマっていて、由嘉里とライ、二人の関係をずっと見ていたくなります。
由嘉里がライに対して抱く絶対的な信頼と憧れ、だからこそ、死へ向かうライの気持ちを止めたいと願う心情は痛いほどよくわかります。しかし同時に、本当のライの気持ちは決してわからないのだろう、と感じる由嘉里の葛藤も深く響きます。傍で同じ時間を過ごしながらも、同じ景色を見ているわけではないという歯痒さや、もどかしさ、そして悔しさのような感情は、なんだかわかる気がします。
翻ってそれは、由嘉里の母親が由嘉里に対して感じている感情にも通じるものがあるように思えます。人は誰もが、「あなたの気持ちをわかりたい」と誰かが近寄ってくることを望んでいるわけではないのでしょう。ただ隣で静かに話を聞いていてくれるだけでいいのかもしれない。そう考えると、「わかりたい」という気持ちは、案外おこがましく、時に余計なお世話になってしまうこともあるのではないかと感じます。人生も幸せも人それぞれで、そこに否定も肯定も必要ないのだと思います。
この先の二人がどうなるのかはわかりません。それでも、由嘉里とライの出会いが、お互いの人生に確かな変化をもたらしたことは間違いありません。誰かと深く繋がり、世界が広がる――それは決して悪いことではない、むしろかけがえのない経験なのだと、本作が静かに語りかけてくるようです。
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