劇場公開日 2025年7月11日

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「人が人に寄り添うということを教えてくれる作品です。」生きがい IKIGAI asaraさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 人が人に寄り添うということを教えてくれる作品です。

2025年7月6日
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鑑賞方法:映画館

(先行上映鑑賞です)

2024年元旦に起きた能登半島地震と、2024年9月に起きた奥能登豪雨の災害で実際に被害を受けた地で、2024年12月初旬オールロケで作られた作品です。

宮本亞門さんが、ボランティア活動をする中で、現地の方から「あなたのような有名な方は、ボランティアをしなくていい、この現状を少しでも広めてほしい」との言葉から決意し、30年ぶりにメガホンをとった作品となっています。

東京では、被災地での撮影に反対の声も多く中止となる可能性もあった中、公費解体が進む前のそこに生きていた風景をおさめるために、急ピッチで撮影が進められたとのことです。主人公の黒鬼の住む家も、実際に半壊認定となったお宅を使用しています。

フィクションですが、脚本は全て被災された方やボランティア活動に実際にあたる方の声を丁寧に集め作られているので、みせるための飾りは一切ありません。

孤独で生きることもあきらめつつあった主人公の黒鬼が、生存率が下がるギリギリの時間に助け出された時にしがみついた「命」。しかし命があるだけでは、人は生きてはいけないということを作品は伝えます。では何があれば、生きて行けるのか。何度も救いを求めようとしながら、絶望を繰り返す中、彼の時間を動かしたものは、劇的な何かではなく、寄り添いと関心の姿勢で、それはそれほど難しいことではないんだと気づくことができた作品です。

能登半島地震の被害は石川県にとどまりません。能登半島には富山県氷見市も含まれ大きな被害が出ています。また全国各地の被災地や、災害にとどまらず日常を生きるための辛さを抱えている方や、周りで支える方、普段何かできることはないのかと考える方にも、それぞれに受け取るメッセージがある作品となっています。

鹿賀丈史さんは、深い怒りと孤独を抱え、生きることに疲れ果てている黒鬼を見事なたたずまいで表現されていました。その黒鬼の唯一の理解者である妻美智子を、大らかな強さをもって包み込むような優しさで表現された常盤貴子さんは、今も能登を頻繁に訪れ支援を続けて下さっています。そして、活動の対象を「片づける物」ではなく「そこに生きている人」への共感、労り、関心をもって、黒鬼の時間を動かすボランティアの青年を演じた小林虎之介さん。宮本亞門さんが絶賛されていましたが、お芝居を超えた彼自身の感性が光る演技で、作品を支えていました。

「生きがい」は、28分というショートフィルムですが、地震発生から11カ月、豪雨発生から2カ月余りの被災地で、冬の天候、公費解体のスケジュールを考えると、これ以上の長さの作品を作ることは不可能でしょう。その限りある時間の中で、「私たちのことを知ってほしい、忘れないでほしい」という能登の方々の切実な願いと、それを受けた制作陣の熱い想いが結実した作品です。後半の「能登の声」は、ドキュメンタリーです。「能登の人は強い、優しい、みんな笑って迎えてくれる」しかし、その奥にある声を届けてくれる作品で、「生きがい」とともに、能登の今を伝える作品となっています。

御陣乗太鼓に始まり、御陣乗太鼓に終わるこの作品は、能登の方々の感情が全て詰まっているように感じました。ぜひ全国に上映がひろがることを願っています。

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asara