「感情をぶつけ合う場面と言うより、イベントと対話が中心になってしまっている物語構成。」君の顔では泣けない 孔明さんの映画レビュー(感想・評価)
感情をぶつけ合う場面と言うより、イベントと対話が中心になってしまっている物語構成。
高校一年生時にプールに落ちた際に心と身体とが入れ替わった男女の15年にも及ぶ人生の葛藤と秘密の共有者たる戦友としての軌跡を描く。
最初は30歳になった二人が喫茶店「異邦人」で会っての会食。
そこから過去の回想へ移る。そもそも映画はいきなりプールに落ちた場面から開始なので、「二人が何故プールに転落したのか」が不明。
高校時代は三年間もあったはずだが、ほぼカットで卒業式になる。
しかも、二人とももっと「性別の違う身体に慣れるまでの戸惑いや苦労」があるはずなのに、それもオールカットされているので、両名ともいきなり性別の異なる身体に順応したかのように映るのは不自然。
身体が男で心が女になったほうは、女の子をとっかえひっかえしてプレイボーイになってしまう。
身体が女で心が男になったほうはなかなか環境に順応できずに苦労する。
この差は・・・二人の家庭環境の差もあっただろう。
女の子の方が家族仲が良く、男の子の方は家族関係がギクシャクしていた。
やがて二人とも東京の大学に進学し、社会人へとなっていく。
それぞれに恋愛関係も進行し、肉体関係を結ぶ相手もできる。
心は女の方は女性を抱き、心が男のほうは男性に抱かれた。
お互いに入れ替わり期間が長引いたためか、双方共に同性愛者でもなかったはずなのに「精神的に同姓の相手」と性行為をできるようになっていた。
しかし、男の子の本当の父親が亡くなった際に実の父親が死んだのに泣くことさえ憚られたことから「運命共同体」であるはずの二人の関係が悪化して絶縁状態になってしまう。
男女の入れ替わりと言う難役を双方が上手く務めた印象があり、不自然さは感じない。
唯、時系列が飛び過ぎでもっと「お互いの葛藤や想いを言葉に出してぶつけ合う場面」が多いのかと思ったのだが、それはむしろ少なくて「男女のイベントシーン」のほうが多い構成は肩透かしか。
終盤に「何でもないような振りをしていた身体が男で心が女の側が、実は涙を押し殺して必死に立ち向かおうとしていた場面」は確かに感情を揺さぶられるものがありました。
けれど「沈黙」の場面も多く、登場人物の心情が読めないシーンも多かったです。
尺の問題は分かるのですが、最初っから余りにも問題や衝突が少な過ぎでは?
苦労もせずに正反対の人生に慣れたような印象を受けてしまいました。
作中の最大の謎は「この二人は何故恋人同士にならなかったのか?」だろう。
実際に作中で登場人物からそのことを指摘もされている。
その答えは・・・・・おそらく「かつての自分自身の身体に対して性的な欲求を抱くのは気持ち悪いという感情が強い」ということではないだろうか。
実際、二人が結婚していれば「身体が元に戻ったとしても夫婦であることは変わらない」のだから、人間関係の影響が小さかったはずだ。
その点が実に「異色」だと思った。
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