「異邦人として生きていく」君の顔では泣けない Jjjjさんの映画レビュー(感想・評価)
異邦人として生きていく
入れ替わる不思議。年齢に沿ったことをしているはずなのに、正解じゃない気分がする。普通、をしているはずなのに違う。なにか、間違っている気分。何かがずれている気分。誰しもが大人になる時に感じる違和感やその痛みがあまりにリアルに描かれている。「異邦人」という名前の喫茶店で会う2人。恋人もいて、仕事もあって、何も間違ってないはずなのに、自分が自分じゃないような気がする。俺、間違ってないよな?と聞く。まさに、自分が異邦人のような気がして不安なのだ。一緒に大人になってきたはずなのに、どんどん形が変わっていくお互いを、お互いの形で、認め合う空間。
私たちみんな、どこかのタイミングで誰かと入れ替わって生きてきちゃったのだろうか。どうしてこんなに共感できるのだろうか。どんどん家族との関係も変わっていって、兄弟は知らない内に大きくなる。大学に入ってイメチェンもしてみて、守りたい人もできて、どんどん大人になっていく。なのに何か違う。相手の人生を羨んで、憎くなる。そんな自分が惨めなのに、泣きたくても泣けない。親が死んだって、本当の自分でいられなくて、苦しい。親の前ですら、泣けない。本当にリアルで痛かった。どんどん変わっていく自分に気づかないふりをして、生きていく。
高橋海人くんはとてもいい演技をする。声のトーン、仕草、視線。ああ、本当に彼の体に間違って入っちゃったんだね、と思わせる。お父さんが亡くなったことを知らせる電話、不安と喪失感に溢れた声、声だけなのに、声は男性のはずなのに、女性特有の滲み出す脆さのようなものが感じ取れる。不思議だ。「だが、情熱はある」でも思ったが本当に繊細で綺麗な演技をする。
戻ったって、救われるかわからない。あの頃の自分はもういない。それでもいいのかは、分からない。2人とも、今の姿を受け入れて生きているのに、あの頃の、高校一年生の頃の自分が消えない。ずっとあの頃の自分を慰めて生きている。こうするしかない、これでいいって。心の中であの頃の自分が戻りたいって泣いているのを、頑張って無視する。
ありえない話のはずなのに、妙にリアルだ。みんな、あの頃の自分と、今の自分のズレを無視しながら生きている。その痛みとも似た感情を非常に新しい方法で描写した作品。沁みる。
個人的には最後、元の体に戻ったような気がする。坂平くんは冒頭から先に着くや否や太ももをさする仕草を何度かしていた。最後、先に座っていた坂平くんが同じ仕草をしていた。
戻っても、そうじゃなくても、生きていく。異邦人として、生きていくんだろうな。
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