「仮初の体で歩んだ人生の中で、芽生えたものの差異は、決定的な違いを生み出していた」君の顔では泣けない Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
仮初の体で歩んだ人生の中で、芽生えたものの差異は、決定的な違いを生み出していた
2025.11.15 イオンシネマ京都桂川
2025年の日本映画(123分、 G)
原作は君嶋彼方の同名小説
15歳の時に体が入れ替わってしまった男女の15年を描いた青春映画
監督&脚本は坂下雄一郎
物語の舞台は、群馬県の高崎市
高崎南高等学校に通う坂下陸(西川愛梨、成人期:芳根京子)と水村まなみ(武市尚士、成人期:髙橋海人)は、ある日プールに落ちたことによって、体が入れ替わってしまっていた
それから15年間、元に戻ることはなく、二人は年に1回だけ同じ場所で会って、戻った時のために近況を伝え合っていた
15年目を迎えたその日、まなみは「戻る方法がわかったかもしれない」と言い出す
聞けば、この地域には体の入れ替わりに関する古典が多く、それが起こる日にちは同じだという
半ば信じがたい話だったが、まなみは今日が終わるまでに考えてくれれば良いと言って、陸に猶予を与えた
15歳で体が入れ替わった後は、まなみは陸の体を使ってあっさりと体の関係を持ってしまう
その後は、相手を取っ替え引っ替えしていくことになり、結婚へと向かうことはなかった
陸の方は21歳の時にかつての親友だった田崎(中沢元紀、高校時代:窪田吏玖)と再会し、彼の誘いに乗って関係を持つことになった
その関係が続くことはなかったが、就職した後に同僚の蓮見涼(前原滉)と同棲を始め、結婚へと至っていた
さらに妊娠することになり、娘のまどか(白井希果)を授かることになった
30歳の再会は娘が3歳の時であり、家庭のこともあって、陸は戻ることを良しとは思わなかったのである
物語は、体の入れ替わり劇にありがちな「混乱のまま元に戻る」ということはなく、15年の歳月がお互いの意識と環境を変えていく様子が描かれていく
結婚、出産を経験した陸は家族を形成し、それは元々の家族との関わりも大きく関与しているのだろう
陸には弟の禄(林裕太、幼少期:酒井禅功)がいて、父・春樹(山中崇)、母・葉月(片岡礼子)との関係は悪くなかった
中身が入れ替わってからは少しギクシャクするようになっていたが、それでもまなみが波風を立てずにやってきたからだと思う
母はまなみの姿の陸に冷たく接していたが、このあたりの描写は少なめとなっている
おそらくはこの家族は家族意識というものが強く、貧乏な中でも連帯してきた故の絆というものがあったのだろう
そこに入ってきた異物という感覚があって、さらに様子が変わってしまった息子に影響を与えたのがまなみであると感じていたのかもしれない
一方のまなみの家族は、父・治(赤堀雅秋)、母・渚(大塚寧々)との関係は普通だったが、中身が陸に変わったことで関係が悪化していた
そこに至る描写も少ないものの、まなみを連れてくるたびに疎外感を感じていて、それが反抗期と相まって衝突が増えてきたからなのだろう
また、男っぽさみたいなものがあって、それが母と娘の衝突につながっていたように思えた
映画では、戻りたくない陸と戻りたいまなみが衝突することになるのだが、それはまなみの方が円満な生活を送れなかったことに起因している
だが、彼女があの時点で戻ったとしても、産んでもいない娘を愛せるのかとか、愛してもいない夫との生活を続けられるのかと言う問題が生じてくる
また、陸自身は戻ることで家庭を失い、その家庭が壊れる様子を外から見るしかなくなってしまう
中身のことがバレた時に夫はどのような反応を示すかもわからず、その閉塞感は死ぬまで続く
それを考えると、新しい体を受け入れて生きていくより方法はなく、15年の歳月はそれを受け入れるために必要な時間であったように思えた
いずれにせよ、性差における悩みを共有し合うことになるのだが、女性の体になった陸の方が辛いことが多かったと思う
それだけ、青春期から成人期、結婚と出産という流れはハードなもので、それを味わうことで覚悟というものが芽生えている
一方のまなみは、仮初の体のまま人生を歩んでいて、自覚を伴う行動というものはしていない
その差異が生まれてしまった15年は絶望的な価値観の差を生んでしまったと言えるのだろう
また、劇中でまなみは様々な恋人を作るのだが、その中に一人だけ本来の性で言う異性(男性)が混じっていた
それはこの性で生きていく中で本来の欲求の部分を試したのだと思うが、それはうまくいかなかったと言うことなのだと思う
だが、陸の方はそう言った方向に行くこともなく、女性として生きることへの抵抗感は少ないように見えている
これは、元々陸自身にその素養があったと言う可能性も捨てきれない部分があって、かつて親友だった同性と流れとは言え関係を持てたと言うのは大きなターニングポイントになっていると思う
そう言った意味では、若干ながらLGBTQ+の要素が混じっていたのかな、と感じた
やっぱり、恋愛遍歴の中に男性いましたよね?
一瞬だったし小さかったし、ショートカットの女性くらいの髪型なので確信が持てませんでした。
ここはもう少し言及してほしかったです。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。

