「もし自分だったら…と考えてしまう」君の顔では泣けない おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
もし自分だったら…と考えてしまう
■ 作品情報
2021年に出版された君嶋彼方の同名デビュー小説の映画化作品。監督・脚本: 坂下雄一郎。主要キャスト: 芳根京子、髙橋海人、西川愛莉、武市尚士、中沢元紀、林裕太、前原滉、大塚寧々。
■ ストーリー
高校1年生の坂平陸と水村まなみは、プールに落ちたことをきっかけに体が入れ替わってしまう。戸惑いながらも元に戻る方法を探すが、一切効果がなく、二人は家族にも秘密にしたまま互いの人生を生きることを余儀なくされる。陸は女性としてまなみの人生を、まなみは男性として陸の人生を歩み、その状態は15年間続く。二人は初恋、卒業、就職、結婚、出産など、それぞれが異なる性の体で人生の転機を経験する中で、自分ではない体で生きる葛藤や、自らの人生への迷いを深めていく。30歳になった夏、「元に戻る方法がわかったかもしれない」とまなみが陸に告げることで、彼らの運命は再び動き出すことになる。
■ 感想
「男女が入れ替わる」という設定は、数多の作品で描かれてきましたが、その多くはコメディタッチのラブストーリーとして展開されます。しかし、本作は、入れ替わった二人の間に恋愛感情は芽生えず、さらに、そのまま元の体に戻らないまま長い歳月が流れていくという点が、非常に斬新です。
15年間も入れ替わったままの二人が、年に一度出会い、近況報告とともに思い出を振り返る姿が新鮮です。その会話があまりに自然で、ありえない設定だと頭では理解しているのに、もし現実にこんなことが起きたら、まさにこんな心情になるのではないかと、深く共感してしまいます。本来の自分ではない姿で、それでも懸命に努力し、悩み、時には互いを支え合って生きてきた二人の日々が実に丁寧に描かれ、その姿が心にじんわりと沁みてきます。
もはや人生の半分を他人として過ごしてきた彼らにとって、今さら元の体に戻ることになった時の影響は計り知れません。それでも、自分の姿を取り戻したいと願う気持ちも痛いほどわかります。平静を装いながらも、その胸の内には深い葛藤を抱え、「きっと戻れる」と自分に言い聞かせ、今の体を相手に返す日のことを考えて慎重に人生を歩んできたことでしょう。その一方で、「このまま戻らなかったら」とも考えて、何度となく「今、何をすべきか」と自問自答したことでしょう。
そんな二人の胸の内を思いつつ、「もし自分だったらどうするだろうか」と、深く考えながら鑑賞していました。単なるファンタジーとしてではなく、人間の本質的な「生」や「選択」、あるいは自分とは異なる性への「理解」について問いかけてくるような作品でした。
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