劇場公開日 2025年10月3日

「何かが揺れ、何かが震える」アフター・ザ・クエイク バラージさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 何かが揺れ、何かが震える

2025年10月28日
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鑑賞方法:映画館

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斬新

NHKが村上春樹の連作短編集『神の子どもたちはみな踊る』を全4話でドラマ化した『地震のあとで』を2時間に再編集した映画。

内容についてはドラマ『地震のあとで』のほうに書いたんで細かくは繰り返さないが、映画はドラマの再編集でありながら再編集感や総集編感が全く無いことに驚いた。最初からオムニバス映画として作られたような非常に自然な作品になっている。おそらく企画当初から映画として公開することも考えていて、映画として不自然な総集編感が無いように脚本も練りに練られて考えられていたんだろう。映像も昔ならテープとフィルムの違いによる違和感があったかもしれないが、今はテレビも映画もデジタル撮影のため全く変わりが無く、ドラマの再編集や総集編ではない、あくまで単独の「映画」として観ることができた。ドラマを観た時には原作との違いにやや違和感を感じるところもあったんだが、ドラマというワンクッションを置いたことで、またドラマから時間が経ったことで、原作から離れて1つの独立した映像作品として消化することもできた。

そして改めて1本の映画として連続して観ることによって、1話ごとに観ていたドラマの時とは異なる印象の作品ともなっている。たびたび出てくる地下鉄には阪神・淡路大震災と同じ年に起こった地下鉄サリン事件の象徴的な意味合いも込められているのではないか? また1995年、2011年、2020年、2025年と時代を連続して観ることによって、何かを失い続けた日本の30年の時代と歴史をリアルな感触として感じることができる。阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件から、東日本大震災、コロナウィルスの流行、そして現在。打ち続く災い。やはりあの30年前は現代日本史の転換点だったのかもしれない。

役者陣も全員が素晴らしいが、個人的にはまさに村上春樹小説世界的ミューズを演じた唐田えりかと北香那の2人、そして鳴海唯の演技と存在感が出色。大友良英の音楽がまた村上春樹の小説世界を絶妙に表現していて素晴らしい。おそらくこれまでの村上春樹の小説の映画化の中でも最も村上春樹小説世界の雰囲気の再現に成功した映画ではあるまいか。最初にドラマで観た時も良いドラマだと思ったが、映画になって再び観ると、さらに素晴らしい出来だと思えた。

「クエイク」には「地震」という意味の他にも「揺れる」「震える」という意味もあるようだ。主人公たち(岡田将生・鳴海唯・渡辺大知・佐藤浩市)の内面で、あるいは我々の内面で、何かが揺れ、何かが震えた後で、彼らは、あるいは我々は、あるいは世界は、何か変わったのか? あるいは変わるのか? そのような問いかけが含まれたタイトルのようにも思えた。

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バラージ