「制作志向とそれに応える俳優陣!」アフター・ザ・クエイク flushingmainstさんの映画レビュー(感想・評価)
制作志向とそれに応える俳優陣!
鑑賞に合わせて、見逃していた「めくらやなぎと眠る女」もサブスクで鑑賞。同じ作者の作品ながら、フランスアニメと日本の実写。あえて比べてみるべきでないのは、其々に描きたいモノが違うからだ。日本で起きたあの三つの災厄を通して、我々日本人のアイデンティティを考えるという意味では、「アフター・ザ・クエイク」は、我々鑑賞者の日本人の機微を充分に揺さぶる作品であったと思う。NHKのドラマを未見ではあるが、まず、巷の大作映画より、よほど映画らしい映画を作られる。全くの私見だけど、NHKという放送局は、「こうしておけば視聴者は喜ぶだろう」的ではなく「こういうものを作って視聴者を喜ばせよう」という志向があるからだと思う。勿論そこには、常に日本のブロードキャスティングの先駆者であろうとする矜持も窺える。
そういうモノづくりの志向に拍手を送りたい。
4つのエピソードともに作者は“空っぽの自分”と言うものをテーマに、3つの災難の前後の人々を描いていく。勿論我々は、それぞれの数分後や数日前に人々がその災難を被る事を知っている。知っていてこの様子を眺めることができる。そしてそこに登場人物達の憂鬱をかなり顕著に感じ取ることになるのだけど、どうもこれは件の災厄とは別に日本人自身が当時持っていた憂鬱のようにも思える。
そして、一体我々はあの期に及んで何をどう立ち振る舞ったのだろうと回顧させられるのだ。
4つのエピソードのうち2つは、災難の前が描かれている。焚き火を見つめる若い男女にもこの憂鬱を痛切に感じて、この後に起きる事を知る我々はかなり心をざわつかせられる。この演出が品が良くて痛烈でいい。若い2人の鳴海唯と黒崎煌代が繊細で素晴らしい。その前の災厄を受難している焚き火をする男は、妻と娘2人を亡くしているにも関わらず、全くノー天気な男に設えているのは、ちょっと不明だ。何も背負わず感じていない男だ。若い2人との対比なのだろうか?
他のエピソードの俳優さん達もこの“空っぽの自分”を実に繊細に演じている。岡田将生、橋本愛、唐田えりか!吹越満、渡辺大知!井川遥、渋川清彦!そして、佐藤浩一!これほどの大ベテランながら、いつも真摯で真っ新な役作りに挑む姿勢に拍手を送りたい。そして佐藤演じる片桐とカエルくんが登場するのがもう一つの災難前のエピソードで2025年を描いたもの。
そしてこのエピソードだけは、この後やってくる災難を、登場人物だけでなく我々も知らないのだ!
その災難を予兆させるからこそ佐藤浩一の演技は素晴らしい。
