劇場公開日 2025年11月29日

「わかりあえないけど、一緒にやっていける可能性」みんな、おしゃべり! 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 わかりあえないけど、一緒にやっていける可能性

2025年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

これはすごい。人の分かり合えなさについて深い洞察があった上で、きれいごとじゃなく一緒にやっていくために何が大事なのかをあきらめずに追いかけている。安易な多数派による包摂を批判しているのもいいが、それよりも本当の意味でマイノリティの視点から多数派の欺瞞を見せているのがすごい。最後はディスコミュニケーションのまま仲良くなってしまうのもいい。
本作はろう者のコミュニティとCODAの娘、それからクルド人コミュニティと日本育ちのクルドの青年が登場する。互いに言葉が通じない2つのコミュニティはことあるごとに衝突する。間に立たされるCODAの娘とクルド人青年は通訳をさせられるわけだが、2人の通訳に関するスタンスの違いがとても興味深いポイントで、ここは是非みなさん鑑賞して考えてほしいポイントである。
本作は異文化同士の衝突であり、言葉をアイデンティティとする人々の物語でもある。日本手話という日本語とは異なる言語と、母国では使用できないクルド語。そして、子どもたちが編み出すなぞ言語。日本語も含めて4つの言語が出てくると言ってよいと思うが、言葉とはただの媒介ではなく、もっと深い何かであるというのが伝わる作品だ。

杉本穂高