「エクストリーム希死念慮」九月と七月の姉妹 Tiny-Escobarさんの映画レビュー(感想・評価)
エクストリーム希死念慮
サスペンスぐらいの味付けかと思って鑑賞したらどっこい、ホラーでした。
妹を口笛で呼ぶ姉。そして、その度に手を止めて従う妹。
妹が姉に助けを求めるのと同時に、姉も妹から救難信号が出されることを心待ちにしている、共依存の状態。そういった人間関係の経験がない私にとっても、この映画の描写はかなり分かりやすいものでした。
姉は、妹が困ったり傷つくのを先回りして止めるということだけはしない。
自転車がちゃんと動いたら。
学校でいじめられなくなったら。
妹は自分のことを頼らずに巣立ってしまうから。
学校で『あること』が起きてから引っ越した先では、姉の支配的な指示が狂気じみてきます。
真相が判明するのはかなり後の方ですが、一貫しているのは、常に妹が『死ぬ方向へ引っ張られている』ということ。
引越し前の時点で姉が死んでいるということが分かってからは、それまでの妹の行動に説明がつき、さらに空いた隙間にはすかさず母が入り込んできます。
母は姉と同じタイプで、あの早口で恨み言をぶつけまくる母の姿は、再度鑑賞するときはスキップしたいぐらいにグロテスクでした。毒親を通り越して、娘の首にずっと鋏をつきつけているような緊張感があります。頼むから人の親であることを諦めてくれと、観ながらずっと願っていました。
監督のアリアンラベドはヨルゴスランティモスの妻らしく、この毒気の多い人間関係の描写には納得でした。
ラスト、崖の手前に立った妹の耳に届いた口笛。
あれだけ耳障りだった甲高い音に対して懐かしいと思ってしまうのと同時に、鳥肌が全開になりました。
姉の姿はカットの端に少しだけ入り込む髪のみで、その表情は分かりません。
あの口笛の意味は「危ないから、戻りなさい」なのか。
それとも「いいよ、飛びなさい」なのか。
最後に残された余白も含めて、いい映画でした。