「面白かった!!」KNEECAP ニーキャップ かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
面白かった!!
北アイルランドやベルファストといえば、IRAが火炎瓶投げてて、いつも何かがどかんどかん爆破され街全体が煙と砂ぼこりでもうもうなイメージ。
冒頭の、「北アイルランドといえば…」の一般人が連想するお決まりの過激派の爆破シーン、からの画面いっぱいの大きなX、「これはそういう話じゃなく」それでガッツリ心掴まれて、そのままのノリで突っ走って最後まで失速なし。
ニーキャップは、火炎瓶を投げる代わりに、音楽とパフォーマンスで「自由」を求める。
「祖国」を、「アイルランド北部」と表現されれば都度、「いや、北アイルランドだから」と修正させるところに、彼らのアイデンティティーへのこだわりが見える。
スタイリッシュでパワフル、シャープで過激で笑いが満載、頭からしっぽまでみちみちに具が詰まった、美味しい映画でした。
メンバー3人とも自然で、演じている感なし、何しろ本人だからパフォーマンスが本人まんま。これがもう素晴らしい。
3人とも顔もいいよね。
IRAの伝説の闘士な父から「アイルランド語は自由のための弾丸だ」と教育され、すくすく育ったニーシャと幼馴染みのリーアム、二人で組んでドラッグディーラーで稼いでいるが、捕まったニーシャが取り調べでかたくなにアイルランド語しか話さず、派遣された通訳の音楽教師、JJと出会って、という出会いがスムーズ。
アイルランド語を、若い二人は「ゲール」と言っていたよう。
征服者が被征服者を従わせるために、被征服者の文化を自分たちに同調させるのは大昔からよくあることだが、もっとも効果的なのが、言語を奪うこと。言語が奪われるというのは、それを使っていた人たちのアイデンティティーも奪われるということだ。
アイルランドの「ゲール」が2022年まで公用語ではなかったのは驚きだが、ニーキャップの存在が公用語への法制定の後押しになったのではないか。(作中ではアイルランド語法制定推進派代表のJJの奥さんに、彼らのリリックがドラッグや性的表現が過激でイメージ悪くなるから止めてくれと詰め寄られていたが。)
彼らとの出会いからアイルランド語を学んでいる、という女性が出てきて、実際にニーキャップのおかげでこの言語を学ぶ人が増えたという話も聞く。
そして、分母が大きければ大きいほど、社会を動かす力になりうる。
引きこもりだったニーシャの母が、息子の窮地にカウチから立ちあがる。
長年クローゼットにしまわれていたドレスを着て革ジャンを羽織り、ブーツを履いて、ばっちりきめて家を出る。風を切って歩く姿がカッコイイ。
息子を思う母の強い気持ちが分かる良い場面だが、肩を怒らせて向かった先が美容院。
さすが、良くわかっていらっしゃる。
私の母は田舎の美容師だったので、よくぞそこ気づいた、とニーシャのママに感心しました。
田舎の美容院は近くの女性の社交場だから噂話の一大集積地。母はそこでたくさんの情報を仕入れてはお客様に拡散、当然のように結構な作り話も交じる大本営みたいなところなんです。お客様はそれぞれがまた拡散するからあの映画まんまで、頷きつつ笑ってしまった。女性たちの噂話はコスパ最強の宣伝方法だったりするんだよね、近所に限りますが。