劇場公開日 2025年9月12日

「雰囲気優先でイマイチ没入できない」Dear Stranger ディア・ストレンジャー おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0 雰囲気優先でイマイチ没入できない

2025年9月14日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

■ 作品情報
監督・脚本は真利子哲也。主要キャストは賢治役に西島秀俊、ジェーン役にグイ・ルンメイ。日本・台湾・アメリカ合作のヒューマンサスペンス。

■ ストーリー
ニューヨークで暮らす日本人教授の賢治と、台湾系アメリカ人の妻ジェーンは、仕事、育児、介護に追われ多忙な日々を送っていた。ある日、4歳の息子・カイが誘拐される。この事件をきっかけに、一見幸せに見えた夫婦の間に隠されていた本音や秘密が露呈していく。誘拐犯が死体で発見され、警察の捜査が進むにつれ、夫婦が抱えていた“暴いてはいけない秘密”が浮き彫りになっていく。

■ 感想
誘拐事件という衝撃的な出来事が、幸せだった家族に大きな試練を与え、夫婦関係が急速にギクシャクしていくさまが、痛ましくも切ないです。しかし、その幸せは元々、本音や真実を隠した危ういバランスの上で成り立っていたのではないかと感じます。事件はあくまできっかけであり、すでに内在していた不和への止めを刺すかのように、夫婦の間に潜んでいた秘密や本音を浮き彫りにしていきます。

全体に漂うのは、上質なヒューマンサスペンスの雰囲気。夫婦間の心理戦や、隠された真実が少しずつ明らかになる過程は、確かに観客の心をざわつかせます。夫の賢治が廃墟研究に没頭し、妻のジェーンが人形劇に打ち込む姿は、彼らの生き方や内面を色濃く反映しているように思えます。

しかし、正直なところ、その象徴性が難解で、彼らの行動や感情に深く共感することができませんでした。そのため、物語世界に没入しきれず、どこか客観的な視点で展開を追ってしまっていたのが残念です。

また、二人の過去があまり明確に描かれないことや、画面の暗いシーンが多いことも、物語の魅力を掴みにくくしているように感じます。雰囲気作りには貢献しているものの、それが物語の骨格を曖昧にし、感情移入の妨げになっていたのかもしれません。観終わった後には、重い余韻が残るものの、個人的にはもう少し踏み込んだ人物描写や明瞭な語り口があれば、より心に響く作品になったのではないかと感じています。

おじゃる