「嘘も百回繰り返せば本当になるってか!」ベートーヴェン捏造 ふくすけさんの映画レビュー(感想・評価)
嘘も百回繰り返せば本当になるってか!
ベートーヴェンの伝記に捏造があると世に知らされたのは、つい最近だったはずだ。
調べたら1977年。
没後150年。
真実が明らかになるのに随分長い時間がかかったものだ。
今、世界には歴史修正のうねりがある。
日本のみならず、
アメリカも(奴隷制をめぐって排除されていた人物の復権やら、建国の年やら)、
ドイツも(ホロコーストはなかったと主張する人たちがいるらしい)。
実は歴史修正の欲求は世界全体の潮流だ。
しかし、このような背景が、この映画のテーマになるかもしれないということは、見る前から予想がつく話だ。
歴史は「このようにあって欲しい」というバイアスにさらされて歪む。
というのがこの映画のテーマの一つであろうが、私にはどうしても軽いと感じた。
例えば、シンドラー(山田裕貴)の嘘を暴けるはずの人たちが次々と死ぬという偶然(偶然ですよね。)
そして出版が英語でなされ、広く最初に拡がってしまったという偶然。
もし、ベートーヴェンの友人たちが長生きして、そして、出版がドイツ語でなされていたなら、150年もかかっただろうか。(ようは分からないということ)
セイヤー(染谷翔太)が暴きかけて、飲み込んだというエピソードだけでは弱くないですか?
もう一つの軸は、シンドラーの内面。
ベートーヴェンを神格化したいという欲求と、自分自身を神に仕える従者として列席させたいという自己顕示欲。
シンドラーは最初から確信犯であった。
ベートーヴェンの神格化のために嘘を塗り重ねることに、葛藤はほぼ感じられない。
この狂気の根を掘り下げないで、映画の価値はあるのだろうか?
これは役者の責任ではない。
私の蒙を啓いてくれるような発見はこの映画には薄いと感じざるを得ない。
一つ、非常に面白かったのは、シンドラーとホルツ(神尾楓珠)との最初の出会いだ。
ホルツは絶世の美青年としてシンドラーとベートーヴェンの前に現れる。
ベートーヴェンは破顔し、シンドラーは強く嫉妬する。
「こんな美形を手元においておきたいですか」的なシンドラーの発言。
シンドラーはベートーヴェンに欲情していたわけではない。
ましてベートーヴェンにはそのような欲求など皆無だ。
しかし、ベートーヴェンが自分には決して見せない笑顔をホルツに向けた。
もうそれだけで、ホルツは絶対に排除すべき対象となる。
そして重要なのはホルツにとってシンドラーは取るに足らない人物であること。
そんな奴いたっけ?
である。
この空回りは切ない。
そして、この物語には女性がほぼ登場しない。
「ベートーヴェンと女性」はかなり大きなテーマのはずだが、シンドラーの嫉妬とホモソーシャル(ホモセクシャルではない)を描くには邪魔だったのか、それとも伝記には書かれていないのか。
最初、ベートーヴェンの伝記を日本人だけで演じて大丈夫かしら?と心配した。
なるほど、中学校の音楽教師のモノローグなのね。
だから遠くの背景が手描きの絵であってもよいのね。
金がないのね、が最初の印象になってしまったが。
歴史は虚構だというのがテーマの一つであるなら、良しとしましょう。
役者は豪華布陣。
山田裕貴、染谷将太、神尾楓珠、小澤征悦、遠藤憲一、古田新太
ただよく見ると、それぞれの役者の登場シーンは短くセリフも少なく、役者の拘束時間は短かったであろう。
あとはバカリズムのお友達の芸人たちのご出演。
松竹さん、東映と違ってお金が足りないのでしょうか。
すいません、意地悪言いました。
ごめんなさい。
共感&コメントありがとうございます😊
テーマ性の深掘りといった点ではもう一押し欲しいところでしたね。いっそサイコスリラーとして撮るのも有りだったかもですね~w
共感・コメントありがとうございます!
結局歴史の「筋」って、勝者の論理で書き換えられていくんですよね。シンドラーのベートーヴェン伝記に勝ち負けはないですが、当時のシンドラーには美的に捏造する事で利益が期待できたことは想像できました。


