劇場公開日 2025年10月17日

「陰翳を誤解した映像美と、失われた物語の深み」おーい、応為 映画悟一さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0 陰翳を誤解した映像美と、失われた物語の深み

2025年11月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

単純

封切り当初はアクセスランキング7位に食い込んだ本作も、公開から一か月弱でトップテン圏外へと沈んだ。その理由は、作品を観終えた後の率直な失望感にあるだろう。葛飾北斎の娘・応為の生涯を描くという題材は、歴史と美術の両面で豊かな可能性を秘めていた。しかし、その可能性は脚本と映像演出の稚拙さによって、ことごとく裏切られてしまった。
主演・長澤まさみの演技力には期待が寄せられていたが、彼女の力量を引き出すどころか、役者を三流に見せてしまうほどの演出の迷走が目立つ。心理描写を深めるどころか、ドラマ性を削ぎ落とした構成は、応為という人物の複雑な内面を単なる「市井の偉人伝」に矮小化してしまった。
映像面ではさらに失望が大きい。監督・大森立嗣と撮影・辻智彦が意識したであろう谷崎潤一郎『陰翳礼讃』の美学は、結果として誤解されたままスクリーンに定着した。陰翳の美とは、暗がりの中に差し込む光が緑や木肌を際立たせる静謐な構図にある。しかし本作では、逆光を多用した結果、被写体の輪郭すら失われ、視点中央には障子越しのスノーライトがただ眩しく広がるのみ。陰翳の奥行きではなく、単なる「見えない不快感」が終始観客を苛んだ。
さらに致命的なのは、北斎の絵画がほとんど登場しないことだ。観客が期待するのは、北斎漫画や浮世絵の筆致を映像にどう昇華するか、その美意識をどう応為の視点と対比させるかという挑戦である。しかし本作は、その核心に触れないまま終わり、父への畏怖や超克といった心理的葛藤も浅薄に描かれるのみ。学芸員レベルの分析を映像に織り込む工夫が皆無であったことは、企画意図や北斎への畏怖と敬意そのものを疑わせる。
結果として、「お~い、応為」というタイトルが示すはずの挑発的な響きは空虚に響き、むしろ「北斎娘の生涯」という凡庸な題名がふさわしい内容に終わった。長澤まさみの演技力でさえ、この構成と映像の失策を補うことはできなかったのである。
残念至極――それが本作を観終えた後に残る唯一の言葉だ。

映画悟一
td1935さんのコメント
2025年11月14日

勝手に、観客代表するな。

td1935
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